元・外資系人事部長、現グローバル人材プロデューサーの鈴木美加子です。本日のテーマは、Matrix Reporting(マトリックス・レポーティング)です。
日本企業が縮小する日本市場を飛び出し、売り上げ拡大を求めてさらに海外市場を狙わなければいけないボーダーレスな時代に、世界に散らばる社員をどうマネジメントするかは今後ますます大きな課題になります。
外資系にはマトリックス・レポーティングが存在します。一言で言うと、上司が2名いる状態です。例えば、外資の日本法人の人事責任者は、ソリッド・ライン(solid line、直線)でアジア・パシフィックもしくは本社の人事責任者にレポートし、ドッティッド・ライン(dotted line、点線)で日本法人の社長にレポートします。部門ごとのファンクションでマネジメント・ラインが存在すると同時に、日々、仕事をするオフィス(コロナ前)の現場での指揮権を持っている人も必要というわけです。確かに完全に放置状態ですと、進捗が不明だったり、そもそもちゃんと仕事をしているのかが誰にもわからなかったりすることがあり得ます。また、外資が重んじるCheck and Balance、どこかに集中させないで、第三者の目を入れて方向性があるべき姿からズレないように、さりげなく監視するためのマトリックス・レポーティングでもあります。
マトリックス・レポーティングがうまく機能する例は、大きなプロジェクトに様々な部門から人材を集める必要がある時です。例えば、IT, マーケティング、営業、経理、購買から人材を集めプロジェクトを立ち上げる場合、出身母体であるそれぞれの部門での上司をいったんdotted lineのボスにして、プロジェクト・リーダーをsolid line、つまり直属の上司とします。日々の仕事をほとんどプロジェクトに費やしている場合、目が行き届きますし、人心を集めプロジェクトに集中させる効果があります。
この場合の課題は、業績評価を誰が行うかと、プロジェクトに携わっている間、社員のコーチングと育成の責任を誰が負うかを明確にすることです。業績評価に関しては、solid lineの上司が行い、dotted lineの上司に同意を求めるのが慣例ですが、明確に決めておいたほうがいいでしょう。新しいプロジェクトに参画できるだけで、社員は成長の機会を得ているとも言えますが、ともするとプロジェクト遂行に目が行きがちで、社員の育成が忘れられがちです。どちらの上司に責任があるかを明らかにして、社員のコーチング、育成が行われるような体制の整備が求められます。
私は、人事という管理部門にいましたが、自分の人事としての上司と日本法人の社長の方向性が合わないことは、一度しか体験していません。一番苦労したのは、米系IT企業に勤めていた時のことです。私の直属の上司(solid line)は、アジア・パシフィックの人事責任者でシンガポールにいました。しかし、Dotted lineの上司である日本法人の社長がシンガポールを無視しようとして困りました。社長は、一年後くらいに日本が本社直轄ではなく、アジア・パシフィックの傘下に入る流れを止めようと抵抗していたのです。人それぞれの立場でモノの見方は変わります。 彼の立場ではやむを得ない判断かもしれませんが、日本法人に所属しながら、最優先の上司がシンガポールにいる私としては頭が痛い状況でした。
例えば、ヘッドカウント(社員の数)についても、アジア・パシフィックは本社に報告する手前、当然、派遣社員を含めた正確な数を知りたがります。派遣社員は0.6と数えるとグローバルに決まっていましたが、社長は、「載せなくていい」の一点張り。人事が契約社員をレポートに載せないと、経理部門は人件費を他の科目で計上しないといけなくなり、小さいことから大きなことまで、上司が2人いることの弊害を体験しました。
それでは、マトリックス・レポーティングがうまく機能するために必要なことを挙げてみたいと思います。
上司からのインプットを、どう業績評価に反映させるかを明確にする(会社がすべき)
2人の上司の役割分担を決める (上司がすべき)
日本法人と所属部署の優先順位が異なる時は上司同士で話し合い、部下が挟まれて困らないように計らう(上司がすべき)
Dotted lineの上司に、仕事の進捗状況を報告することを忘れない。間接的にレポートしている上司は、報告さえきちんと受けていれば介入したりマイクロマネジメントを始めることはないため。(部下がすべき)
世界に散在する社員が生産性の高い仕事を行い、ストレス低く人材として成長できるように、会社側・2名の上司・部下はそれぞれに果たすべき役割があるということです。
今回は、ボーダーレスな時代に組織を率いるための一つの大きなヒントである、マトリックス・レポーティングについて説明しました。
プロフィール
Mikako (Micky) Suzuki (鈴木美加子)
株式会社AT Globe 代表取締役社長
GE、モルガンスタンレーなど外資系日本法人の人事部を転職し、油圧機器メーカー現・Eaton)ではアジアパシフィック本社勤務、日本DHLでは人事本部長を務める。1万人以上を面接した経験を元に、個人向けに キャリア相談を提供している。自身が転職を8回しており、オーストラリアでビザ取得に苦労した体験もあるので、日本国内外、すべての転職相談に対応できるのが強み。
診断ツールLUMINA SPARK & LEADER 認定講
STAR面接技法 認定講師
ホフステード6次元異文化モデル 認定講師
お茶の水女子大学卒業。
著書
2019「やっぱり外資系がいい人の必勝転職AtoZ」(青春出版)
2020年6月「1万人を面接した元・外資系人事部長が教える 英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業)
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