元・外資系人事部長、現グローバル人材プロデューサーの鈴木美加子です。本日のテーマは社内異動の運用についてです。
このコラムは、企業で人事をされている方向けに書かれています。
今回、社内異動をテーマに選んだのは、キャリア相談をしていて「社内に異動したい部署があるけれど、異動できないので転職するしかありません」と言う若い世代が多いことに危機感を抱いているからです。外資出身者として年齢にはあまりこだわりたくないですが、「若い世代」の定義と言われれば35歳ぐらい以下でしょうか。
まずは、外資系企業と日本企業の社内異動の違いについて見てみましょう。
外資系の社内異動
外資系はスペシャリストの集団なので、会社主導で社内異動が起こる事はあまりありません。部署をまたいで異動させて、ジェネラリストを育てる気持ちが会社にありません。もちろん、適性が他にあるとみなされた社員を、本人と話し合った末に他部署に移動させる事はあり得ます。
また、ほとんどの外資に公募制度(オープン・ポジション・システム)が存在します。ルールは、現職に2年間就いている人材は、社内で公募されている他部署のポジションに、上司に報告することなく応募して良いことになっています。上司に知られることなく面接が行われ、受かれば社内で異動するし、受からなければ元の仕事に留まることになります。
肝心なのは、後から上司が知ったとしても、決して異動をブロックすることがないことです。優秀な社員に他部署へ行かれてしまうのは残念ですが、キャリアは社員のものであり上司のものではないので、せっかく芽が出たチャンスを潰すような上司は非難されます。25年間、外資の人事にいて、社内異動が決まった社員の転出をブロックしようとする上司を見たことがありません。それだけ個人主義と、キャリアは社員本人のもので会社や上司のものではないと言う考え方が浸透しています。
確かに人事部と本人が黙っていたとしても、公募制度に応募したことが漏れてしまうことは発生するかもしれません。現在の上司の耳に100%入らないかと言えば確率はゼロでは無いでしょう。 現上司からしてみれば、自分のところにいるのが不満だから変わりたいと言われているのと同じで、面白くない気持ちは残るかもしれません。それを顔に出したり仕事上で足を引っ張ったりすると、本当に「器」が小さいと上司自身が周囲に呆れられてしまうので、大人の対応をするよう努力するのが外資です。
比べると日本企業は、「属する集団を最優先する」集団主義的な日本の文化が影響して、会社=家族のように捉える世代が管理職層にまだまだ多いです。会社のために私利私欲をなくして働くのが当然と考えていたり、「君のキャリアは会社の業績に関係ない」と公言する上司まで存在していたりするそうで、驚きます。優秀な社員に他部署に異動されたら自分の評価が下がると考える人が多く、キャリアを自ら開拓しようとする若い社員の行く手を阻む存在になってしまいます。
人間はこのような閉塞感を持つと、次にどうするでしょう? 答えは「外の世界に目を向ける」です。日本企業から、外資系企業に流出する結果になった優秀な若い日本人社員をこの2年間でたくさん見ました。社内に彼らを活かせる職場があって異動できることは、転職されて人材そのものがいなくなってしまうことに比べれば、会社としてのメリットがありますが、なかなか変わらないのが日本企業の体質です。
日本企業の管理職層が、「昔の社員は、もっと愛社精神を持っていた」などと言ってみたところで、時代が変わり世代が変わり、社員の価値観と考え方が大きく変わっているので、もはや通用しません。
幸いなことに日本企業の場合は、人事権を人事部が持っているので、人事のトップを巻き込み人事部以外のステークホルダーと話してもらうプロセスに大きな影響力を与えることができるでしょう。社内異動をどう運用すべきかを真剣に検討しないと、この問題は解決しませんし、外部へ目が向く社員が増えていきます。
本日は、日本企業における社内移動の運用について警鐘を鳴らすことを目的とした記事を書きました。会社全体のメリットを考え、キャリアは個人に属するものであって会社が決めるものではないことを、理解できる管理職を増やしていくことを目指し、それぞれの会社に合った具体的な方法を考えてください。
プロフィール
Mikako (Micky) Suzuki (鈴木美加子)
株式会社AT Globe 代表取締役社長
GE、モルガンスタンレーなど外資系日本法人の人事部を転職し、油圧機器メーカー現・Eaton)ではアジアパシフィック本社勤務、日本DHLでは人事本部長を務める。1万人以上を面接した経験を元に、個人向けに キャリア相談を提供している。自身が転職を8回しており、オーストラリアでビザ取得に苦労した体験もあるので、日本国内外、すべての転職相談に対応できるのが強み。
診断ツールLUMINA SPARK & LEADER 認定講
STAR面接技法 認定講師
ホフステード6次元異文化モデル 認定講師
お茶の水女子大学卒業。
著書
2019「やっぱり外資系がいい人の必勝転職AtoZ」(青春出版)
2020年6月「1万人を面接した元・外資系人事部長が教える 英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業)
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