今、多くの日本企業に注目されている「ジョブ型雇用」は、日本で主流の雇用形態である「メンバーシップ型雇用」とは異なる雇用形態です。スキルを重視した採用を行い、結果、生産性の向上につながるといった特徴を持つジョブ型雇用は、急速にグローバル化する世界経済に対応する雇用形態といえるでしょう。
ここでは、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いや、それぞれのメリットとデメリットをご紹介します。また、今後ジョブ型雇用が日本企業に浸透するのかについても解説します。
ジョブ型雇用とは条件が明確化された雇用契約のこと
ジョブ型雇用は、企業が職務内容・勤務地・時間などの条件を明確化して就業者と雇用契約を結び、就業者は契約の範囲内でのみで働くという雇用システムです。基本的に別部署や他拠点への異動・転勤などがなく、昇進や降格もありません。
ジョブ型雇用は、日本企業で一般的なメンバーシップ型雇用と比較されることが多くあります。メンバーシップ型雇用とは、職務や勤務地を限定することなく新卒で正社員を一括採用し、長期にわたって雇用する雇用システムです。
メンバーシップ型雇用では、「会社にマッチする人材」を採用する一方、ジョブ型雇用は「仕事内容にマッチする人材」を採用する手法といえるでしょう。
ジョブ型雇用が注目される背景
近年、ジョブ型雇用が注目されているのはなぜでしょうか。そこには、下記のような社会的背景が存在します。
専門職の人手不足解消のため
近年では、少子高齢化による労働人口の減少の影響を受け、さまざまな業界が深刻な人手不足に悩まされています。みずほ情報総研株式会社の「IT人材需給に関する調査」(2019年3月)によると、SEをはじめとしたIT人材の専門職は、2030年には最大で、79万人程度の人材が不足すると予測されています。
ジョブ型採用であれば、就業者が専門的な仕事に集中できるためスキルを磨きやすく、専門職の人手不足解消につながると考えられています。
専門性を高めて国際競争力を高めるため
先に述べた専門職の人手不足は、「日本の国際競争力の低下」という事態を引き起こしつつあります。
昨今では、日本にもさまざまなグローバル企業が進出しています。競争力の高いグローバル企業に対抗するためには、日本企業も同様に国際競争力を高める必要があります。そのためにも、ジョブ型雇用で人手不足に陥っている専門職を、いち早く育成することが大切です。
メンバーシップ型雇用の継続が難しくなった
そもそも、メンバーシップ型雇用は、経済が今後さらに成長していくことを前提としたシステムでした。ですから、終身雇用や年功序列賃金といったシステムを機能させることができ、従業員が会社に依存する形で働くことができたのです。
しかし、現在の日本経済は成熟しており、今後の飛躍的な成長が見込める環境にはありません。そのため、メンバーシップ型雇用は、今の時代背景にマッチしないシステムとなってしまい、新たな雇用システムとしてジョブ型雇用が注目されているのです。
多様な働き方に対応しやすい
日本政府の推進する「働き方改革」を皮切りに、人々の働き方は多様化しています。
「ワークライフバランス」の考え方も広まったことで、長期的な人材育成を前提としたメンバーシップ型雇用だけでは、企業が人材を確保するのが困難になっています。
さらに近年では、子育てや介護と両立しながら働きたいと考える人も増えています。このような、スキルはあるものの働ける時間・場所などに制約がある人材を雇用する場合、仕事内容や能力に応じて給与を支払うジョブ型雇用のシステムが活きてきます。
テレワークや時間差出勤などで、従業員の管理・評価が難しくなった
従来のメンバーシップ型雇用は、従業員が企業に出社して働くことが前提でした。
しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大により、現在は、多くの企業でテレワークや時間差出勤などを実施せざるをえない状況です。このような情勢では、従業員を一律に管理・評価することが困難です。
一方、ジョブ型雇用であれば、業務内容や評価基準を細かく定義して採用するため、テレワークを取り入れても従業員の評価をしやすいというメリットがあります。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い
ジョブ型雇用は、日本企業にとってなじみ深いメンバーシップ型雇用とよく対比されます。では、この2つの雇用形態には、どのような違いがあるのでしょうか。
注意すべきポイントは、ジョブ型雇用は成果主義というわけではない点です。また、「ジョブ型雇用は解雇されやすい」という誤解もありますが、日本には法律で不当な解雇を無効としているため、ジョブ型雇用であってもミスマッチが生じた途端に解雇されるわけではありません。
ここでは、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いを、「仕事」「給与」「採用」「解雇」の4項目に分けて比較してみます。
■ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い
ジョブ型雇用 | メンバーシップ型雇用 | |
---|---|---|
仕事における違い | 専門性が高く限定的 | 業務内容や勤務地に関する明確な規定がないことが多い |
給与における違い | 業務内容や専門性の高さに応じて給与が決まる | 勤続年数の長さに影響される傾向がある |
採用における違い | 専門的な知識があるかどうかが重視される | 人柄やコミュニケーション能力が重視されやすい |
解雇における違い | 欧米では業務内容が終了または消失した時点で解雇されることもあるが、日本ではすぐに解雇されることはない | 従業員は解雇されにくく、長期にわたって働くことが出来る |
仕事における違い
ジョブ型雇用は、「仕事に対して人が割り当てられる」という雇用の形です。欧米で主流の雇用形態であり、職務や勤務地、ポジション、勤務時間があらかじめジョブ・ディスクリプション(職務記述書)により定められています。仕事の内容は限定的で、専門性が必要とされます。
一方、メンバーシップ型雇用は、「先に人を採用してから仕事を割り振る」という点が、ジョブ型雇用と異なるといえるでしょう。メンバーシップ型雇用では、仕事内容や勤務地、勤務時間などを限定せず、会社にマッチする人を採用します。仕事内容や勤務地、勤務時間に関する明確な規定がないことも多いため、状況によっては会社が従業員に対して、部署の異動や転勤、残業を命じることができます。
給与における違い
ジョブ型雇用では、「職務給」を採用しています。職務給とは、担当する職務の内容や専門性の高さにより、給与が決まる賃金制度です。そのため、年齢や勤続年数にかかわらず、高いスキルや能力があれば高収入になることがあります。
一方、メンバーシップ型雇用の場合は、「職能給」です。職能給において給与は、仕事の出来高よりも勤続年数の長さに影響される傾向があります。
採用における違い
ジョブ型雇用の場合、任せたい業務に関する専門的な知識やスキルがあるかどうかを重視します。
メンバーシップ型雇用の場合も、専門的な能力が評価される場合はあるでしょう。しかし、ジョブ型雇用と比べ、人柄やコミュニケーション能力などが重視されやすいのが特徴といえます。
解雇における違い
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用では、何らかの事情で職務が必要なくなった場合、従業員を解雇できるかどうかという点でも異なります。
欧米でよく見られるジョブ型雇用の場合、業績の悪化や会社の都合により、担当する職務が必要なくなった際に、従業員を解雇することがあります。一般的にジョブ・ディスクリプションでは、職務が経営の都合上消失した場合、解雇してはいけないという決まりが設けられていません。仕事の内容・範囲と勤務地が限定されており、契約上、従業員に新しい仕事を用意する義務がないのです。
日本でもジョブ型雇用の解雇については議論されていますが、現在のところ、従業員の解雇にはさまざまな規制があり、満たすべき要件や手続きがあるため、すぐに解雇されるということはないでしょう。
一方、日本で主流となっているメンバーシップ型雇用は、ジョブ型雇用よりも従業員の解雇は容易ではないといえるでしょう。メンバーシップ型雇用を採用する企業では、一般的に労働者を解雇するには、合理的な理由が必要であるという考え方が浸透しています。
・ジョブ・ディスクリプションについてはこちらの記事もご覧ください
ジョブ・ディスクリプションの意味とメリットを知り外資系転職に備える
ジョブ型雇用のメリット・デメリット
続いては、ジョブ型雇用のメリットとデメリットをご紹介します。企業側と従業員側の両面から、具体的に見ていきましょう。
企業にとってのジョブ型雇用のメリット
企業にとって大切なのは、必要な人材を必要な場所に、必要な期間確保することです。そうした点で、ジョブ型雇用は企業が望む人材を雇用しやすいといえるでしょう。企業側から見るジョブ型雇用のメリットには、下記のようなものが挙げられます。
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求める人材を効率良く確保できる
ジョブ型雇用では、企業は専門分野に長けた人材を採用します。その都度、仕事にマッチした人材を適切なタイミングで募集することができるので、求める人材を効率良く確保することができます。
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雇用のミスマッチを防ぐことができる
ジョブ型雇用では、ジョブ・ディスクリプションにより、職務や勤務地、勤務時間、給与などを明確に定めています。条件に合う人材のみを採用できるので、雇用のミスマッチを防ぐことができる点もメリットといえるでしょう。
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スペシャリストを育成しやすい
ジョブ型雇用では従業員に対し、スキルに合った職務のみを割り振りますので、従業員は職務における専門性を磨けることになります。重宝するスペシャリストを育成しやすい点は、企業にとってのジョブ型雇用のメリットといえるでしょう。
従業員にとってのジョブ型雇用のメリット
ジョブ型雇用のメリットは、企業側だけにもたらされるものではありません。従業員側にとってのジョブ型雇用のメリットについて紹介します。
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スキルを活かすことができる
ジョブ型雇用の従業員にとっての最大のメリットは、自分のスキルや能力を最大限に発揮することができるという点でしょう。専門的な業務に集中して取り組み、スキルアップすれば、高収入につなげることも可能です。
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入社後のミスマッチが生じにくい
ジョブ型雇用では、仕事内容はもちろんのこと、勤務地や勤務時間、給与などの条件が明確にされた上で応募するため、採用後、さまざまな面において企業とのミスマッチが生じにくくなります。
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決められた仕事以外は行う義務がない
基本的には、ジョブ・ディスクリプションに記載されていない仕事を行う義務はありません。そのため、自身の業務が終わったにもかかわらず、周りが残っているからといった理由で残業しなければならない事態に陥りにくいといえます。
企業にとってのジョブ型雇用のデメリット
ジョブ型雇用のメリットは、デメリットとなってしまう場合もあります。ジョブ型雇用を採用する企業にとってのデメリットを紹介します。
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契約範囲外の仕事を依頼することができない
ジョブ型雇用で従業員が対応すべき業務は、ジョブ・ディスクリプションに定められている内容のみという原則があります。記載されていない仕事は契約範囲外となりますので、基本的には依頼することができません。そのため、ある部署の従業員が急病で一時的に業務を遂行できなくなったときに、臨時でほかの部署の人員を補充するような対応は、難しい場合があるでしょう。
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優秀な人材を引き抜かれるリスクがある
ジョブ型雇用は、その特性から優秀な人材が育成しやすい環境といえます。その環境で従業員が専門性やスキルを向上させた結果、より待遇のいい企業に引き抜かれてしまうリスクもあるでしょう。
従業員にとってのジョブ型雇用のデメリット
ジョブ型雇用は、勤務条件がしっかりと定められているため、従業員にとってはメンバーシップ型雇用に比べると利点が多い雇用形態です。ですが、デメリットがないわけではありません。従業員にとってのジョブ型雇用のデメリットをご説明します。
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自分でスキルを磨く必要がある
ジョブ型雇用の従業員側のデメリットとして、スキルアップをするためには自主的な努力が必要であるという点が挙げられます。一般的に、ジョブ型雇用の場合は、スキルや能力があるのが当然という形の雇用です。そのため、企業側による社内でのトレーニングや教育などが充実していない、または受けられないこともあるかもしれません。
メンバーシップ型雇用のメリット・デメリット
続いては、メンバーシップ型雇用のメリット・デメリットをご紹介します。こちらも、企業側、従業員側の両面から見ていきましょう。
企業にとってのメンバーシップ型雇用のメリット
企業にとってのメンバーシップ型雇用の大きなメリットは、従業員の業務内容に関することといえます。続いては、企業にとってのメンバーシップ型雇用のメリットをご説明します。
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会社の都合で社員の職務・条件を変更できる
メンバーシップ型雇用の場合、会社の都合で従業員の職務内容や勤務条件を変更できる点がメリットです。
メンバーシップ型雇用では、採用の際に職務や条件などを限定していないため、企業側の都合で、従業員の仕事内容や勤務地を変更することが可能です。特に、仕事内容についても限定されることはありません。
従業員にとってのメンバーシップ型雇用のメリット
メンバーシップ雇用は、終身雇用が前提にあります。従業員にとっては、よほどのことがない限り解雇される心配がなく、業務に関するスキルについても学べる環境が整っていることが多いでしょう。
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不当な解雇を受けることがない
従業員にとってのメンバーシップ型雇用のメリットとして挙げられるのは、不当に解雇されるリスクがないという点です。
例えば、何らかの事情で担当していた業務が不要になったとしても、すぐに解雇されることはなく、部署の異動などを通じて、その企業に勤務し続けることが可能です。安心して長く働き続けることができる点は、従業員にとって魅力といえます。
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人材育成の環境が用意されている
メンバーシップ型雇用は、基本的には終身雇用を前提としています。そのため、社内で人材を育成するという意識が高く、研修やトレーニングが用意されている点も、従業員にとってのメリットとなります。
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勤続年数によって給与アップを期待できる
メンバーシップ型雇用の場合、勤続年数が長くなることで給与アップが可能です。1つの企業に長く勤務したい人にとっては魅力といえます。
企業にとってのメンバーシップ型雇用のデメリット
多くの日本企業は、長くメンバーシップ型雇用を採用してきたこともあり、企業文化としてしっかり根づいて、効果的に機能している場合も多いでしょう。それでも、企業にとってメンバーシップ型雇用のデメリットはあります。
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成果を出せない社員に高い給料を払う場合がある
メンバーシップ型雇用では、能力がなく、会社への貢献が見込めない従業員であっても、勤続年数が長いという理由だけで、給与をアップしなければならない場合があります。
従業員にとってのメンバーシップ型雇用のデメリット
先にご説明したように、ジョブ型雇用が注目されている背景には、働き方の変化が挙げられます。この働き方の変化により、従来のメンバーシップ型雇用の前提が、従業員にとってデメリットと感じられる場合もあるでしょう。
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会社の都合で異動や転勤に応じる必要がある
入社時に、職務や勤務地といった条件を明確にしないのがメンバーシップ型雇用の特徴です。そのため、会社の都合で部署異動や転勤などに応じる必要がある点がデメリットといえます。
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年功序列の給与体系に不満を感じることがある
職能給を採用するメンバーシップ型雇用では、業務が能力に見合っていないのに、勤続年数が長いという理由で給与が多いという事態が発生する場合があります。仕事の質や成果に見合う、正当な給与が支払われるべきと考える従業員であれば、不満を感じることもあるでしょう。
ジョブ型雇用でなくタスク型雇用が進む?
ジョブ型雇用は昨今の情勢においてメリットが多い一方で、日本の法制度にはマッチしにくいという欠点もあります。そんな中、次に注目されているのが「タスク型雇用」です。
タスク型雇用とは、職務内容をさらに細分化した、「タスク」に応じて一時的に人材を雇用する制度です。プロジェクトの開始時に人員の募集をかけたとしても、プロジェクト終了と同時に雇用契約が終了するため、ジョブ型雇用以上に柔軟に人材を雇えるというメリットがあります。また、企業にとっては、「高い技術を持っていてコストが高い人材」を短期間だけ雇えることもメリットです。
ただし、タスク型雇用は日雇いのような状況となる可能性も高く、労働者にとっては雇用が不安定になる場合があることも否めません。
ジョブ型・メンバーシップ型・タスク型で自社に合う雇用形態を
終身雇用、年功序列といった制度が揺らぎつつある日本で、今後ジョブ型雇用は普及していくのでしょうか。
2019年、当時の日本経済団体連合会(経団連)会長の中西宏明氏が終身雇用の見直しについて発言し、話題となりました。
また、2019年4月に開催された経団連と国公私立大学の代表者で構成される「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の中間とりまとめに関する記者会見では、新卒を一括で採用し、一括でトレーニングするような従来の方法は時代に即していないという趣旨の発言をしています。
こういった流れを受け、ジョブ型雇用への日本企業の関心は、今後さらに高まり、法整備も整っていくと予測されます。また、業種によっては、タスク型雇用を採用する企業も増えてくるかもしれません。
とはいえ、これまでの日本企業の文化を急激に変えることは容易ではなく、雇用の安定といったメンバーシップ型雇用のメリットも否めません。
自分に合う雇用形態について考えることが大切
今後は、各企業がジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用、タスク型雇用、それぞれの雇用形態のメリット・デメリットを把握した上で、自社にとって有効な雇用形態を模索する必要があるでしょう。
また、各個人が、自分はどのような企業で働きたいのか、雇用形態も含めて考えることが大切です。
グローバル企業で働くことは、グローバルに働きたい人や語学力を生かして働きたい人だけでなく、自分の可能性やワークライフバランスを求める多くの方にとって、多くのメリットがあります。
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