経理の仕事をしていて、「外資系企業へ転職して収入アップを狙いたい」と考えている人もいるのではないでしょうか。しかし、外資系企業の経理職は、日本国内の企業とはいくつか異なる点があり、注意が必要です。
そこで今回は、外資系企業における経理業務の注意点と、転職する際に持っていると有利なスキルや資格について解説します。資格の取得方法もご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
外資系企業と国内企業では会計基準が違う
外資系企業の経理として働く上で、まず注意しなければいけないのは、日本国内企業との会計基準の違いです。
会計基準とは、財務諸表を作成する際のルールを指します。国内と海外の会計基準の違いを把握しておかなければ、経理の仕事にも支障が出てしまいます。
日本国内の企業が採用している会計基準は4種類
日本国内の企業は、下記の4種類の会計基準の中から自社に合った基準を選択できます。
・日本会計基準
日本会計基準は、企業会計原則をベースに設定した会計基準です。一般的な日本企業が多く採用している会計基準ですが、国際市場では影響力がありません。
・米国会計基準
米国会計基準は、米国財務会計基準審議会(FASB)が発行する会計基準です。財務会計と税務会計が独立しており、それぞれ別の基準を選ぶことが可能です。アメリカで上場している企業で多く採用されています。
・国際会計基準(IFRS)
国際会計基準(IFRS)は、世界標準を目指して作成された会計基準です。導入にはコストがかかりますが、世界標準であるため、海外で資金調達しやすいというメリットがあります。日本企業の場合、海外に多数の子会社を持つ企業が採用しているケースが多いです。
・国際会計基準の日本版(J-IFRS)
国際会計基準(IFRS)を日本の経済状況に合わせて調整したものを、国際会計基準の日本版(J-IFRS)といいます。国際会計基準に比べると、海外における資金調達がしにくい傾向があるでしょう。
外資系企業の会計基準
外資系企業は、本国の会計基準に従って会計報告書類を作成している場合があります。しかし、近年EUの会計基準が国際会計基準(IFRS)に義務づけられたこともあり、世界中で国際会計基準の導入が加速しています。
このような背景もあり、国際会計基準の採用によって得られる資金調達面でのメリットは、今後さらに大きなものとなるでしょう。グローバルに活躍する企業では、国際会計基準が必須といえる状況になるかもしれません。
外資系企業と日本企業の経理業務では通貨と決算期にも違いがある
経理業務において、国内企業と外資系企業では、会計基準以外にも「通貨」と「決算期」に違いがあります。経理の仕事をこなす上で大切なポイントになるため、それぞれの違いをしっかりと把握しておきましょう。
通貨の違い
日本国内の企業は、会計報告書類を「円」で表示するのが一般的です。一方、外資系企業は、本国の通貨に換算して会計報告書類を作成します。そのため、為替相場の変動によって、会計上の損益に影響が出る可能性があります。
このような為替リスクを常に考慮しながら処理をするため、外資系企業での経理業務は、日本国内企業の経理よりも難しいと感じる人もいるでしょう。
決算期の違い
一般的な日本の国内企業は、年1回の決算期にのみ決算業務を行います。しかし、外資系企業では、本国の親会社の決算期に「連結決算」を行わなければなりません。
多くの国際会計基準(IFRS)の採用企業では、親会社・子会社の決算期を統一しており、同時に決算を行えます。しかし、決算期が一致していない場合は注意が必要です。このようなケースでは、本国の親会社の決算期に合わせて、日本の子会社側でも仮決算を行うことになります。
外資系企業の経理職に必要なスキル
外資系企業の経理として働く上で必要なスキルは、主に下記の3つがあります。
経理の実務経験
日本国内企業での経理としての実務経験は、外資系企業の経理として働く際にも役立ちます。転職の場合、即戦力が求められるため、実務経験がない人材は採用されにくい傾向があるのです。もちろん、前述した会計基準や通貨、決算期の違いなどはありますが、経理としての実務経験があれば、外資系企業でもスムーズに仕事ができるでしょう。
現在、経理としての実務経験がない場合には、まずは日本国内の企業で経理として実務経験を積んだり、経理に関する資格の取得を目指したりするのもおすすめです。
Excelやクラウド会計ソフトなどの知識
経理の仕事は、PCの使用が必須になります。特に、Excelのスキルがあるとスムーズに働くことが可能です。Excelでは、SUM、VLOOKUP、ROUNDといった基本的な関数や、ピボットテーブルを使う機会が多くあります。一方、マクロやVBAなどを使う機会は少なく、それほど高度なスキルが必要なわけではありません。
また、クラウド会計ソフトを導入している外資系企業もあります。クラウド会計ソフトは、会社経営に必要な管理業務を自動化し、経理業務の効率化を図るソフトです。会社によって採用している会計ソフトは異なりますが、どのソフトでもある程度の機能は共通しています。そのため、過去にクラウド会計ソフトを使用した経験があれば、スムーズに業務をこなせるでしょう。
ビジネス英語
外資系企業の経理職として働く場合、ビジネス英語のスキルがあると便利です。経理の仕事そのものには、高度な英語が必要になるケースはありません。英語で書かれた契約書や請求書を読む機会がある程度です。
しかし、本国の親会社やグループ会社の経理担当者とコミュニケーションをとる場合は、英語が必要になります。また、いっしょに仕事をする同僚や上司、部下が、外国人であるケースは多々あります。
そのため、TOEFLなどでハイスコアを取得して、英語力を証明できるといいでしょう。
外資系企業の経理職に転職する上で有利になる資格
外資系企業の経理として働く場合には、これまでに解説した国内企業との違いや外資系企業で働くために必要となるスキルについて、理解しておくことが大切です。これらを踏まえた上で、外資系企業の経理職へと転職する際に有利となる資格を、3つご紹介します。
日商簿記検定
日商簿記検定は、日本商工会議所が実施する検定試験です。商業簿記や会計実務といった経理に役立つ知識が身につきます。難度は「原価計算初級」「簿記初級」「3級」「2級」「1級」に分かれており、1級はかなりの難関資格です。
日商簿記検定3級の試験では、ビジネスパーソンが身につけるべき基本的な商業簿記について出題されます。3級の資格を取ることで、仕訳についてある程度の知識があることをアピールできるでしょう。
日商簿記検定2級の試験になると、高度な商業簿記と原価計算を含む工業簿記に関する問題が出題され、試験の難度も上がります。日本商工会議所のデータによれば、2020年11月に開催された試験では3級の合格率が47.4%だったのに比べ、2級の合格率は18.2%と、ぐっと下がっているのです。
なお、即戦力を求める外資系企業では日商簿記検定2級以上を取得していると、転職に有利といわれています。2級取得に向けて学習することで、財務諸表から経営内容を把握したり、企業活動や会計実務を踏まえて分析を行ったりすることができるスキルが身につくからです。
<日商簿記検定の取得方法>
日商簿記検定は、各地の商工会議所から申し込んで取得します。申込み方法は商工会議所によって異なるため、注意が必要です。ここでは、東京商工会議所を例に解説します。
1. 申込み
インターネットから申込みをします。東京商工会議所の場合、電話や窓口での申込みは受けつけていません。
2. 受験料の支払い
申込書(払込取扱票)が届いたら、申込書を参考に、受験料と事務手数料(税込550円)を支払います。支払後、受験票が届くので、試験当日の会場などについて確認してください。
3. 検定試験
受験票に明記されている試験会場にて受験します。当日は受験者本人であることがわかる身分証明書が必要です。
4. 合否発表
合格者には、合格証明書が届きます。合否発表の日時や配布方法は、商工会議所によって異なりますので確認しましょう。
USCPA(米国公認会計士)
USCPAは、「United States Certified Public Accountant」の略で、米国公認会計士のことです。
USCPAを取得するには、試験に合格するだけではなく、実務経験を通してライセンスを取得する必要があります。また、USCPAを取得するには、会計に関する知識だけでなく、高い英語力も必要です。
USCPAを取得すれば、英語圏の多くの国で会計のスペシャリストとして評価されます。外資系企業の経理に転職する際にも有利に働くでしょう。
また、たとえ資格を取得できなくても、取得のために勉強することで、経理業務をスムーズに進められるようになるはずです。
<日本国内でのUSCPAの取得方法>
以前、USCPAは海外でしか取得できませんでしたが、現在は日本国内でも受験することが可能です。
1. 出願州の選択
アメリカでは州によって法律が異なるため、州ごとに受験条件などが異なります。ただし、どの州でも4年制大学の学位が必要になります。なお、出願州によって試験の難度や、合格率が変わるわけではありません。
2. 学歴評価
アメリカ国外の大学で取得した学位や単位については、各州の試験委員会が指定する学歴評価機関で評価を受けなければなりません。
学歴評価は「NASBA(全米州政府会計委員会)」の出願州のページからオンラインで入力し手数料を支払ったのち、英文成績証明書、英文卒業証明書および、受験者のパスポートのコピーを郵送します。成績証明書などの書類は、大学の封筒に入れられ糊づけされている厳封の状態で送付しなければなりません。また、事前にNASBAのアカウントを作成する必要があります。
評価の結果はNASBAのサイトから確認、および評価結果のダウンロードが可能です。学歴評価は時間がかかるため、早めに申し込みましょう。
3. 願書の送付
出願する州に、USCPA試験の願書を申請します。オンラインで申請、または申請書の送付など、申請方法は州によって異なりますが、基本的にはNASBAの「CPA CENTRAL」のページから申請が可能です。事前の学歴評価と併せて受験条件が認められると、受験票(NTS)が送付されます。
4. 試験会場の予約
日本国内の試験会場は、東京の御茶ノ水ソラシティ、大阪の中津センタービルの2ヵ所のみです。受験票に記載された、6ヵ月の有効期限内に試験会場を予約して受験します。
受験者が日本人の場合は、日本以外に、アメリカで受験することも可能です。アメリカで受験する場合は、全米に約300ヵ所ある「プロメトリックテストセンター」で受験の予約をします。予約の際は、出願州は関係ありません。好きな場所を選ぶことができます。
5. 受験
予約した受験日に、受験会場にて受験します。USCPAは4科目あり、全科目に合格しなければなりませんが、1日で全科目を受験する必要ありません。NTSの有効期限内であれば、数日に分けて受験することも可能です。
6. ライセンス取得
USCPAを取得するには、試験の全科目に合格後、さらに、実務経験を通してライセンスを取得しなければなりません。このライセンス取得条件も州によって異なります。実務だけではなく、監査経験が必要だったり、アメリカ国内に居住しなければ取得できなかったりする場合もありますので、出願州を決める際に併せて確認しておきましょう。
BATIC(国際会計検定)
BATICは、「Bookkeeping and Accounting Test for International Communication」の略で、国際コミュニケーションのための簿記・会計試験を指します。TOEICのようなスコア制を採用しており、取得した点数に応じて「Bookkeeper」「Accountant」「Accounting Manager」「Controller」の称号が与えられます。
BATICでハイスコアを取得すれば、国際的な会計スキルを持っていることを証明できます。そのため、グローバルに活躍する外資系企業の経理に転職する際に役立つでしょう。
<日本国内でのBATICの取得方法>
BATICは、日本国内では各地の商工会議所で試験を受けることが可能です。
1. 申込み
商工会議所のウェブサイト、もしくは電話で受験の申込み登録が可能です。登録日から通常、5営業日以内に申込書(払込取扱票)が送付されます。
2. 受験票の支払い
申込書に従い、郵便局またはコンビニエンスストアで受験料を支払います。支払後、受験票と受験要項が郵送されてきますので、内容をよく確認しましょう。試験当日に関する詳細や、受験後の成績票照会などについて記載されています。
3. 受験
試験会場にて受験します。試験会場や試験時間、当日必要な持ち物などが、受験票や受験要項に記載されていますので、事前に確認・準備をしてください。
4. 成績の照会・認定証の受け取り
試験後にWEB成績票照会期間が設けられており、インターネット上で自身の成績を確認することが可能です。専用サイトのURLは受験票のみに記載されていますので、受験後も受験票は保管しておきましょう。その後、認定証と併せて、成績表や模範解答が郵送されます。
外資系企業で経理として働きたい人は、国内企業との違いを意識しよう
今回は、経理職に関して外資系企業と国内企業の違い、外資系企業の経理に転職する際に有利なスキルや資格について解説しました。
外資系企業の経理として働きたい方は、BATICなどの国際的な検定試験などを受け、経理のスキルを証明できるといいでしょう。ですが、必ずしも海外の資格を持っていなければ転職できないというわけではありません。むしろ、即戦力を求められる転職市場では、国内企業であっても経理の実務経験を積んでいることが大切といえるでしょう。それに加え、ある程度のビジネス英語のスキルがあると、転職活動を有利に進められます。
外資系企業の経理への転職を検討している方は、経理の実務経験を積んだり、資格取得を目指したりして、準備を進めてみてはいかがでしょうか。
グローバル企業で働くことは、グローバルに働きたい人や語学力を生かして働きたい人だけでなく、自分の可能性やワークライフバランスを求める多くの方にとって、多くのメリットがあります。
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