この頃、世間を騒がせている大企業からの発信と言えば、サントリー新浪社長の45歳定年とパナソニックの割増退職金4,000万円のリストラです。
まずサントリーの45歳定年については、意図がよく伝わらず発言の一部が切り取られたとも言えます。日本には高齢者雇用安定法なる法律が存在し、現時点で60歳と決められているので、この法律が改正されない限り、企業が60歳を下回る定年年齢を制定することはできません。60歳を超える分には一向に構いませんが、下げることはできないのが法的縛りなので、来年にも公けに45歳が定年になるのかと慌てふためく必要はありません。
パナソニックのリストラは、退職割増金のレートのカーブを見ると、50歳〜55歳がターゲットになっていると言われ、大量採用時代の余剰人材を削減することが当初の目的だったと思えます。蓋を開けて見ると、1,000人の退職希望者には優秀な若手も含まれており、精度の説明不足だったのと会社側は弁明しています。同社がリストラを実施するのはこれが初めてではなく、会社の将来に危機感を持った若い優秀な人材が新天地を求めて転職することは、驚くに値しない流れでしょう。
上記を踏まえ、日本企業の人事担当者が将来に備えるべきことは、ジョブ型雇用の導入を真剣に考えることです。メンバーシップ型雇用は、会社が終身雇用を提供できる場合にのみ機能します。もはや社員の雇用を生涯は守れない可能性が高く、会社都合で転勤させたり社内異動させて、ジェネラリストを育てることを正当化する理由が見当たりません。
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用とは、それぞれの仕事に職務記述書が存在し必要なスキルが明記され、オープンポジションにベストな人を内外から採用することがベースとなります。新卒採用は行ったとしても全員4月入社の一括では行わず、終身雇用は前提ではありません。集団主義というよりは個人主義に根ざしており、個人の業績に合わせて評価・昇給・昇進・賞与に「差」が出ます。
企業が生き残るにあたり柔軟性が必要な今、部分的にでもジョブ型雇用を導入することは理にかなっています。雇用形態は、人事制度全てと紐づいており全てを急に変えるとリスクもあるので、例えば、専門性の高い職種(研究開発員など)から新しい採用が必要になった時に、異動で補うのではなく純粋に必要な経験とスキルを既に持っている人材を内外から募るようにすることからスタートするのはどうでしょう。ある職業群から小さく始めて、関係する人事制度をどうするかも長期的な視野で考え構築します。試験的に運用して、修正点がわかったところで、全社への導入を考えれば社内での摩擦も反対も少なくて済みそうです。
ダブルラダーとは
もう一つ導入を考えたい制度が、Double Ladder(ダブル・ラダー、2つのはしご)です。現在、ほとんどの日本企業では、給与が上がり昇進するためには人を束ねて課長・課長代理・部長と役職が上がるしか手段がありません。その結果、確かに能力はあるけれどマネジメントが苦手な人が、役職者になっているケースは多々あります。
ダブル・ラダーの元では、道が二つ存在します。一つは今までのように、人を率いて昇進していく道です。もう一つは、専門職としてスキルのレベルが高くなっていくことで昇進し、マネジメントをする必要がない道です。後者は例えば、コミュニケーション力があまり高くない非常に優秀なエンジニアが該当します。人と関わることや、人の上に立つことに全く興味はありませんが、誰もかなわないスキルを保有し専門職としての貢献が多大なので、給与も役職グレードも高く支払われる人材です。この専門職の道が存在すると、人の上に立つことに向いていない人をマネジメント職に無理やり就かせることがなくなり、本人も部下も不要なストレスから解放されます。本人は自分に適している仕事にだけ没頭できるので、生産性も高く会社への貢献度も増すことになり、どこから見てもWin-Winです。
会社は昇進したい社員だけで成り立っているわけではありません。中には、最初から昇進に興味がない人材もいます。ダブル・ラダーの専門職の道は、昇進しなくても良いので落ち着いて仕事をしたい社員にも向いています。
終身雇用を保証する体力は日本企業になく、どうやって優秀な人材を採用して長く勤務してもらうかを考えることは急務です。年齢に関係なくスキル・経験で登用される仕組み、会社からだけでなく社員本人から見た時も「適材適所」になる配置を可能にするため、ジョブ型雇用、ダブル・ラダー制度を日本式にどう取り入れるか、先延ばしにしないで真剣に考える時期に来ています。
プロフィール
Mikako (Micky) Suzuki (鈴木美加子)
株式会社AT Globe 代表取締役社長
GE、モルガンスタンレーなど外資系日本法人の人事部を転職し、油圧機器メーカー現・Eaton)ではアジアパシフィック本社勤務、日本DHLでは人事本部長を務める。1万人以上を面接した経験を元に、個人向けに キャリア相談を提供している。自身が転職を8回しており、オーストラリアでビザ取得に苦労した体験もあるので、日本国内外、すべての転職相談に対応できるのが強み。
診断ツールLUMINA SPARK & LEADER 認定講
STAR面接技法 認定講師
ホフステード6次元異文化モデル 認定講師
お茶の水女子大学卒業。
著書
2019「やっぱり外資系がいい人の必勝転職AtoZ」(青春出版)
2020年6月「1万人を面接した元・外資系人事部長が教える 英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」(日本実業)
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