現代において、特定の国にとどまらずに企業活動を行う「多国籍企業」は珍しいものではなくなりました。数多くの多国籍企業が台頭し、市場を席巻するようになった理由には、多国籍企業が持つ強みやビジネスモデルの特徴が深く関係しています。
ここでは、多国籍企業の特徴やグローバル企業と多国籍企業の違いのほか、多国籍企業に特有のメリット・デメリットなどについてまとめました。
多国籍企業は複数の国で活動する企業
多国籍企業とは、活動拠点を1つの国に限定せず、複数の国で活動する企業を指します。国連の「World Investment Report」における定義では、2ヵ国以上の国において資産を所有する企業です。
日本にも多くの多国籍企業があり、世界170以上の国や地域で車両を販売するトヨタ自動車、世界80ヵ国以上の国に事業基盤を持つ武田薬品工業などが挙げられます。また、海外直接投資を行う企業も多国籍企業に含まれることがあり、多国籍企業とは「複数の国に事業拠点を持つ企業」「海外直接投資を行う企業」の総称と捉えることができるでしょう。
多国籍企業が持つメリット
多国籍企業が数多く台頭する背景には、多国籍企業特有のメリットがあります。さまざまな国や地域で活動することにより、なぜ事業を推進しやすくなるのでしょうか。多国籍企業の持つ4つのメリットについて解説します。
生産コストを抑えられる
多国籍企業の多くは途上国に製造拠点を設けており、現地で人材採用や原材料の調達を行っています。先進国と比べて途上国は人件費や材料費が低いため、生産のコストを抑えることが可能です。また、現地支社で原材料を直接調達することで、調達先を安定的に確保することも可能になります。
原材料を海外から調達して国内で生産する場合は関税がかかりますが、現地で原材料を調達して生産することにより、調達時の関税の回避にもつながるでしょう。
マーケットが拡大する
国内のみではなく、海外の複数の国で事業展開することは、マーケットの拡大の面でも有利です。
進出先で製品やサービスを提供することにより、マーケットそのものが拡大します。生産やロジスティクスが世界規模になることで、前述したように生産コストが抑えられるため平均原価が低減でき、結果的に消費者価格を抑えることにもつながります。
人材採用のチャンスが広がる
多国籍企業は、自国の従業員を現地に派遣するだけでなく、現地での人材採用も行います。国内のみで人材を確保する場合と比べると、人材採用のチャンスは増えるでしょう。
また、多様で優秀な人材を、世界規模で採用できるメリットもあります。特に日本においては、高齢化と労働人口の減少が進みつつあり、優秀な人材の確保は年々厳しさを増しているのが実情です。雇用を海外へと広げれば、優秀な人材を採用できる可能性が高められます。
進出先に雇用を生む
多国籍企業の増加は、進出先の国や地域にもメリットをもたらします。大規模な現地採用が行われれば、進出先では大規模かつ継続的な雇用機会が生まれ、より良い条件で働ける人が増えるでしょう。
世界各地で従業員が増えていくことは、企業にとってステークホルダーが多様化することも意味しています。企業と関わる人が増え、関心を寄せる人が多くなることで、結果的にブランドイメージの強化にもつながります。
多国籍企業のデメリット
多国籍企業は多くのメリットをもたらす反面、注意すべきデメリットもあります。多国籍企業が進出・発展していくことによるデメリットを紹介します。
市場の独占につながる可能性がある
多国籍企業は世界各地に多数の拠点を設け、事業規模を拡大します。現地で事業を展開する企業が太刀打ちできない規模になり、各業界の市場を独占するおそれもあります。
限られた一部の企業が市場を独占すれば、競争原理が働きづらくなります。巨大多国籍企業にとって有利なルールが定められやすく、新興企業が生まれにくくなる可能性もあるでしょう。また、消費者の選択肢が狭められたり、イノベーションが阻害されたりするリスクが予想されます。
進出先の産業発展を妨げるおそれがある
多国籍企業のスケールメリットが仕入原価の低減を促し、消費者にとって商品を安価に購入できることがあります。しかし、こうしたメリットは、現地の事業者を圧迫する要因にもなりかねません。
消費者は「より有名な」「より安い」商品を好みます。多国籍企業が現地で広く認知され、スケールメリットを武器に事業を拡大することによって、進出先の産業発展を妨げるおそれがあるでしょう。
文化や慣習の違いによって衝突の可能性がある
多国籍企業は自社が掲げる理念や事業計画にもとづき、海外でのビジネスを推進します。ただし、進出先の各地域にはそれぞれ独自の文化や慣習があり、必ずしも多国籍企業と調和するとは限りません。
一例として、多くの日本人は、評価を高めるために賃金以上の仕事をする傾向がありますが、賃金と仕事内容のバランスに対してシビアな国は少なくありません。日本人の感覚で仕事を依頼しても、現地の従業員が期待したような働き方をしない可能性もあります。
文化や慣習の違いは、論理的な説明によって埋められるとは限りません。進出先との衝突の原因となりかねないことは、理解しておく必要があるでしょう。
グローバル企業と多国籍企業の違い
多国籍企業と似た言葉として、「グローバル企業」があります。
かつて、IBMのCEOを務めたサミュエル・パルミサーノ氏は、2006年にアメリカの政治雑誌で、海外展開を行う企業を次の3種類に分類しました。
■海外展開を行う企業の種類
国際企業 (International Corporation) |
本国での機能を維持したまま海外で製造・販売する企業。海外に製造工場などはあるものの、拠点としての機能はなく本社に機能が集中している。 |
多国籍企業 (Multinational Corporation:MNC) |
海外拠点がそれぞれ独立した事業体として機能している企業。現地法人が人材をはじめとするリソースをそれぞれ管理し、名実ともに拠点として機能している。 |
グローバル企業 (Globally Integrated Enterprise:GIE) |
本社や支社・支店を含めた世界中の拠点が、1つの組織となっている企業。本社機能のすべてに各国からアクセスでき、国境の概念が希薄になっている。 |
パルサリーノ氏によると、多国籍企業はグローバル企業に進化するまでの一過程です。
近年、ICTの発展により、物理的な距離はビジネス推進の障壁にならなくなりました。企業は各国に現地法人を置かなくとも、経理はA国、人事はB国のように機能を分担することで、世界規模の大きな1つの企業として運営することも可能になっています。これが、パルミサーノ氏の分類したグローバル企業です。
多国籍企業は進出先に適応しながら発展してきましたが、グローバル企業は国の枠にとらわれることなく、価格や品質の面から最適解を選び出すことが可能です。さらなるICTの発展やマーケットの拡大により、今後は多国籍企業からグローバル企業へと進化する企業が増えていくでしょう。
グローバル企業についてはこちらの記事もご覧ください。
グローバル企業とは?働くメリットとデメリット、必要なスキルを解説
多国籍企業はグローバル企業に進化する
多国籍企業は、それぞれの国やマーケットに適応しながら発展を続けてきました。昨今は、ICTの発展により世界のボーダレス化がさらに進み、多国籍企業からグローバル企業へ変わる企業が増加すると考えられます。
グローバル企業になっても、各国のマーケットの状況を把握しなければならないことは同じです。その上で、その国に合ったビジネスを行うか、世界共通のビジネス基準を作るかが、多国籍企業とグローバル企業の違いといえるでしょう。
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