ビジネスパーソンは、日々の仕事を通じて、さまざまな知識やスキルを習得しています。大きなプロジェクトや、華々しい成果を上げた仕事からはもちろん、日常的な業務から得られるものも少なくありません。ただし、忙しい毎日の中で、得られたものを言語化して再認識する余裕まではない人が多いのではないでしょうか。
キャリアの自律性が問われる今、定期的に過去の経験を見直し、「自分にできること」をリアルタイムで認識、把握しておくことはとても重要です。そこで注目されているのが、「キャリアの棚卸」です。
この記事では、「これまで何をやってきたのか」「どんな力が身に付いたのか」を洗い出すキャリアの棚卸のメリットのほか、やり方と転職活動への活かし方などについて解説します。
キャリアの棚卸とは時系列でキャリアを振り返る作業
キャリアの棚卸とは、自身のこれまでのキャリアを時系列で振り返り、深掘りしていく作業のことです。
大事なポイントは、所属していた企業や部署、職種、仕事内容といった経歴を羅列するのではなく、一つひとつのステップで取り組んだ業務やそこで得た経験、習得したスキルなどを事細かに書き出すこと。自身が評価された仕事や規模の大きな仕事だけでなく、ルーティン業務に対する姿勢も余すことなく書き出しましょう。
キャリアの棚卸の目的は、日々仕事に取り組んでいる上では言語化できていなかった自分の強み・弱みや得意なこと・向いていること、業務をする上で大切にしている価値観などを、あらためて認識することになります。キャリアの棚卸は、職務経歴書などの応募書類の作成や面接対策にも必要不可欠な作業なのです。
キャリアの棚卸の目的
キャリアの棚卸は、特に転職活動において非常に重要だといわれています。なぜ、転職活動時にキャリアの棚卸を行うべきなのでしょうか。ここでは、キャリアの棚卸を行う3つの目的をご紹介します。
自分の強みを理解する
キャリアの棚卸の目的のひとつは、自分の強みを理解することにあります。転職活動において、強みはよく聞かれる項目であり、必ず言語化しておくべきことです。強みを聞かれた際、強みを認識しているからこそ自身をより魅力的にアピールできる可能性があるほか、よどみなく答えられれば、採用側に良い印象を与えることができるでしょう。
なお、転職活動で強みとしてアピールできるのは、下記のような項目です。
<転職活動でアピールできる強み>
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高い専門性と知識
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仕事を通じて身に付けたスキル
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仕事を通じて培ったコミュニケーション能力
日々、当たり前のように行っていたことの中で、他者から見ると実はすごいポイントを探し出すためにも、キャリアの棚卸は効果的なのです。
自己PRの解像度を上げる
キャリアの棚卸は、これまで携わってきた業務を新卒入社時代からすべて洗い出します。これにより、長いあいだ忘れていた新卒入社時代の失敗や稀有な経験、志望先企業の応募に活かせそうなプロジェクト参加の事例を思い出すことができるでしょう。
洗い出した一つひとつの業務について、「どのような思いで取り組んだのか」「何を目指して、どのように努力したのか」といったマインド面も含めて分析すると、自分が仕事にやりがいを感じるポイントや、仕事において重視する点が見えてくるはずです。
過去の自分を客観的に捉えることができると、自分の軸となるアピールポイントが見つかり、自己PRの説得力が飛躍的に上がります。
転職後のミスマッチを防げる
転職活動においては、自分が持つスキルや価値観と、企業が求める人物像や社風がマッチしているかどうかは極めて重要です。転職後のミスマッチ発覚は、双方の時間やコストを無駄にしてしまうからです。
キャリアの棚卸によって、自分の強みや得意なことはもちろん、自分が転職したいと思う企業や業種、職種などがある程度明確になります。転職後に活躍できる企業をきちんと選ぶことができれば、求職者側・採用側ともに「こんなはずではなかった」といったミスマッチが生まれる確率は大幅に減るでしょう。
キャリアの棚卸と自己分析の違い
キャリアの棚卸は、自分の過去の経験を一つひとつ振り返っていく作業です。自分の内面を分析する作業に「自己分析」がありますが、キャリアの棚卸と自己分析は何が違うのでしょうか。
端的にいうと、キャリアの棚卸は自己分析の一種です。キャリアの棚卸は、キャリア(仕事)という軸に沿って「これまで何をしてきたのか」「蓄積した経験やスキルによって何ができるのか」「これから何をしたいのか」を整理することです。
一方、自己分析の特徴は、キャリアでくくらず、自分の価値観や強み・弱み、得意・不得意などを分析し、「自分はどんな人間か、どうありたいのか」を考えることにあります。
キャリアの棚卸を行うことは、自分の仕事面での特徴が明確になると同時に、仕事を含めた一人の人間としての特徴を把握する自己分析につながっていくことになります。ですから、自己分析はキャリアの棚卸後に行うとより効果的です。
キャリアの棚卸を、転職活動にどう活かす?
キャリアの棚卸は、自分の軸を明確にしてぶれのない転職活動をするためだけでなく、志望先企業に応募するタイミングと面接のタイミングでも活かすことができます。
ここでは、キャリアの棚卸を転職活動に活かす方法について解説します。
キャリアの棚卸の結果を職務経歴書対策に活用する
職務経歴書は、これまで携わってきた仕事の内容や実績、さらには仕事を通じて培ったスキル、知識などをアピールする書類です。職務経歴書を書く前にキャリアの棚卸を行うことによって、自身の経験ごとに、獲得した知識やスキル、出した成果の見える化ができます。ですから、よりメリハリのある職務経歴書を書くことができるでしょう。
キャリアの棚卸の結果を面接対策に活用する
キャリアの棚卸の結果を活用すると、転職の軸ができるので、職務経歴書などの応募書類の内容と面接での受け答えの内容に齟齬が生じるのを防ぐことができます。
面接官が重点的にチェックする「転職の理由」「志望動機」「自己PR」については、キャリアの棚卸をもとにすれば、「自分はどのような人間か」「どうしてそう考えたのか」「志望先企業で自分にはどんなことができるのか」などがすでに深掘りしてあるので、たやすく言語化できるはずです。
ですから、転職活動の面接において、面接官の「なぜ?」「どうして?」という質問にも、すぐに的を射た回答をすることができるでしょう。
キャリアの棚卸を行うメリットとは?
転職活動時にキャリアの棚卸を行うと、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、キャリアの棚卸によって期待できるメリットを5つご紹介します。
仕事の目標や必要なスキルを理解できる
キャリアの棚卸によって、将来的に身につけるべきスキルや、蓄えていくべき経験を把握して、転職活動を始めることができます。それは、自分が何を求めて仕事をしてきたのか、何を目指しているのかといった、過去をあらためて把握することができるから。
キャリアの棚卸で記憶を一つひとつ掘り起こし、これまでの軌跡を振り返ることで、結果的に深い自己分析となるはずです。
転職先企業・業種・職種の選択肢が明確になる
キャリアの棚卸をして「何のために、どんな経験を積むべきか」「今の自分に足りないのはどんなスキルか」がわかれば、必然的に転職先企業や業種、職種の候補が絞り込まれるでしょう。自身のキャリアの掘り下げによって、自身の潜在的な強みやスキルに気づき、これまで実力的に難しいと思っていた企業の職種が応募先候補に上がってくるかもしれません。こうして転職先の選択肢が明確になり、無駄のない転職活動が実現します。
転職のタイミングを冷静に判断できる
現状のスキルや経験を客観的に把握し、転職したい企業や業種、職種などがある程度明確になっていれば、そのような企業の応募要件を見て、冷静に転職のタイミングを見極められるようになります。仮に、「今の自分が応募しても、採用されるのは難しい」とわかったら、現職で経験を積んだり、プライベートな時間で学びを深めたりするなど、将来の目標に向けて具体的なアクションがとれるようになるはずです。
企業が求める人物像とのマッチング確認ができる
スキルや経験と同様、企業が求める人物像とマッチすることも、転職活動においては欠かせない要件です。キャリアの棚卸を行って自分自身の性格や考え方を客観視した結果、「積極的に新しいことにチャレンジする」「トラブルに対しても柔軟な対応ができる」などの傾向が見られるとしたなら、それらの人物像を重視する企業への応募も視野に入れることができるでしょう。また、棚卸による自己分析の結果から的確に判断すれば、入社後のミスマッチも未然に防げます。
応募書類や面接のもととなるデータが完成する
転職活動では主に、書類選考と面接の、2つのステップがあります。キャリアの棚卸のデータをもとにして転職活動用の応募書類を作成すれば、記載内容に説得力が生まれます。このデータは、面接における自己PRや志望動機にも活用できるため、応募書類から面接まで、あなたのアピールや発言に一貫性と具体性を持たせられるはずです。
キャリアの棚卸の方法
転職活動に必要不可欠なキャリアの棚卸は、どのように進めていけばいいのでしょうか。続いては、キャリアの棚卸の実際の手順を、具体的に解説していきます。
1. これまでの経験をすべて振り返る
そもそも棚卸とは、自社で保有する資産(在庫)の数量を数えて調べ、その資産価値を確定するときに使われる言葉です。小売・卸売業や製造・加工業などでは、定期的に行われています。
転職活動でも、あなた自身が培った資産を漏れなく数えるつもりで、新卒から現在までに経験したすべての仕事を一つひとつ丁寧にピックアップしてください。
「失敗だった」「大した成果は出せなかった」という苦い記憶と結びついている仕事であっても、経験のひとつとして必ず書き出しましょう。具体的には、これまでの所属会社名・部署名を書き出し、それぞれの所属年数を記入した上で、各部署・各プロジェクトでの職種と職務を記入します。
2. 一日の業務・行動を書き出す
全体の振り返りが終わったら、現職にフォーカスし、代表的な一日の業務と行動を書き出します。出社から終業まで、時系列で行動を追っていくと抜けや漏れがなくなります。
■例:営業担当者の一日の業務の流れ
時刻 | 業務と行動内容 |
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8:00 | 出社、メールチェック(急ぎのメールに返信) 朝会での報告内容を確認 |
9:00 | 朝会に出席し、昨日の実績と今日の行動予定を報告 |
10:00 | 訪問予定の会社にもっていく資料を準備 プロジェクトメンバーと会議 |
11:00-13:00 | 移動兼昼食 |
13:00-14:00 | 商談(1) |
14:00-15:00 | 商談(2) |
16:00- | 帰社、アポ取り、明日の資料作成など |
「不定期だがしばしば発生する業務」「普段は意識していないが、実は毎日行っている業務」が見つかることもありますので、抜けや漏れのないよう書き出してください。
3. 担当業務に取り組む際の姿勢と実績を書き出す
書き出したすべての業務について、あなたが業務に取り組む際の姿勢と実績を書き加えます。
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業務に対する姿勢
業務に対する姿勢とは、業務を行うにあたって意識していたり心掛けていたりしたことを指しています。「工夫に対する自己評価や達成度」「同僚や上司からの他己評価」などを振り返ると言語化しやすくなります。 -
姿勢や工夫によって達成した実績
前向きな姿勢やそれに伴う工夫によって、どんな実績を達成することができたのか、具体的なエピソードを書き出します。「全社の売上が◯%アップ、◯ヵ月間の契約が決まった」など、定量的なデータを盛り込むように意識しましょう。
4. 俯瞰して共通する強みと再現性を考える
キャリアをすべて書き終えたら全体を俯瞰し、強みや弱み、得意、不得意を見つけ出します。
まずは成果を出した業務に注目し、共通するスキルや環境、よく出てくる言葉がないかを確認します。次に、複数回にわたって登場しているスキルや環境の中から、再現可能なものをピックアップしてください。
この作業を行うと、高い成果を出すにはどのようなスキルが必要か、どんな環境に身を置くべきか、どんな心掛けで仕事に臨むべきかが明らかになってくるはず。同時に、自分が伸ばしたいと思っているスキルや伸びる環境(メンバー編成含む)が見えてくるでしょう。
転職先企業にとって重要視されるポイントは、「どんな強みで何を成し得たか」よりも「その強みを自社でも再現して成果を出せるか」です。
あなたが強みを発揮して達成した成果は、実は一人では成立しなかったもので、もしかすると環境やメンバーへの依存度が高いものではないでしょうか。自分を良く見せたい気持ちは抑えて、冷静に評価してみてください。
5. 自分の軸を決めて転職応募先を考える
キャリアの棚卸によって判明した強みや得意分野のうち、何を軸にするかを考えます。軸が決まれば、今回の転職において「自分の何をどのようにアピールするか」が自ずと決まってくるはずです。応募書類や面接の中でも、特に重要なデータなので、「何を成し遂げてきたのか」「これから何をしたいのか」について、一貫性を持たせるようにすることをおすすめします。
注意したいのは、過去に豊富な実績があり再現性が高いことであっても、あなたがやりたいことと合致しているかどうか。合致していなければ、結果的に長くは続きません。
反対に、弱みや不得意な領域のことでも、他者からの評価が高く改善点が明確であれば、今後の心構えや環境次第で成長できる可能性は高いといえるでしょう。
キャリアの棚卸を行う際のポイント
キャリアの棚卸は、職務経歴書や面接のもととなる、大切なデータづくりです。そのデータづくりにおいて、注意すべきポイントを整理します。
行動や思考の言語化を意識する
何気なく行っていた行動やいつも考えていることを、平易で伝わりやすい言葉としてアウトプットするのは難しいもの。しかし、応募書類や面接においてはその言葉が説得力を持ち、応募先企業の人事担当者の心を揺さぶる可能性があります。「自分の売上よりも、まずはお客様のニーズに応えることを常に考えていた」「お客様の話を聞くことを何より大切にしている」といった心掛けや工夫にこそ、その人の信念や強みが強く現れているからです。最初は苦労しますが、時間をかけて、一つひとつの行動や思考の言語化を行いましょう。
説得力ある回答のために自問自答を繰り返す
面接では、応募書類などに書かれた実績や経験の理由や過程を、深掘りする質問が投げかけられることが多いでしょう。いかに華々しい経歴や実績を伝えても、「どうして?」「どうやって?」に回答できなければ、思考が浅い印象を与えかねません。
キャリアの棚卸の結果から、面接官がもっと知りたそうだと思う項目をピックアップし、自問自答を繰り返しておいてください。
自分の市場価値を知るため、定期的にキャリアの棚卸を行う
転職をするかしないかにかかわらず、自分の現在位置を確認する手段として、定期的にキャリアの棚卸をすることをおすすめします。仕事を通じた経験やスキル、実績は日々アップデートされるもの。今の強みや得意分野の再確認は、現在の業務にもフィードバックできるはずです。
もちろん、定期的な見直しを習慣化しておくと、転職時の振り返りが格段に楽です。年に1回はキャリアの棚卸をする習慣をつけましょう。その際に、転職エージェントにキャリアの棚卸結果を確認してもらい、自分の市場価値を確認しておくと、客観的な視点が加わってさらに有意義な振り返りとなります。
キャリアの棚卸は転職エージェントに相談しよう
キャリアの棚卸は、転職活動の軸となる重要なものです。一人でキャリアの棚卸を行うのが難しいと感じたら、転職エージェントに客観的なアドバイスをもらいながら進めることをおすすめします。
転職エージェントでは、キャリアの棚卸のやり方から、キャリアの棚卸の結果にもとづく応募書類の作成、面接対策までトータルでサポートしています。今すぐに転職を考えてはいないという人も、自分の現在の仕事を見つめ直す意味でも、キャリアの棚卸から始めてみてはいかがでしょうか。
まずはお気軽に、RGFプロフェッショナルリクルートメントジャパンにご相談ください。当社のコンサルタントがキャリアの棚卸のお手伝いをします。
グローバル企業で働くことは、グローバルに働きたい人や語学力を生かして働きたい人だけでなく、自分の可能性やワークライフバランスを求める多くの方にとって、多くのメリットがあります。
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