仕事に対する譲れない価値観や本質的な欲求のことを「キャリアアンカー」といいます。昨今、人材の流動性の高まりやキャリアの多様化を受け、キャリアンカーは注目されているのです。
キャリアアンカーは、30歳前後に形成されて、自分の中に存在し続けるといわれています。キャリアアンカーを早い段階に知ることで、仕事を選択する際の迷いをなくし、満足のいくキャリアを描くことができるでしょう。
この記事では、キャリアアンカーを調べる方法や知るメリットのほか、キャリアアンカーの8つの分類について解説。さらに、キャリアアンカーを転職活動に活かすメリットと、活かし方などについてもご紹介します。
キャリアアンカーは譲れない価値観
キャリアアンカーとは、仕事の経験を指す「キャリア」と、船の錨を指す「アンカー」を組み合わせた造語で、組織心理学者のエドガー・シャイン博士によって提唱されました。キャリアの選択や形成を行う際に、譲れない価値観のことを指しています。
キャリアについての考え方は、ずっと同じではありません。「これまでは給与が第一条件だったけど、子供が生まれたので多少給与が下がってもワークライフバランスを重視したい」というように、変化していくのが普通でしょう。
キャリアアンカーの特徴に、一般的な自己分析のような「何がしたいか」「何が得意か」(What)といった表面的なことではなく、「どのように」(How)働きたいかを考える点があります。これまで働いてきた中で得た価値観から、自分の譲れないポイントが何かを分析し、それを中心にキャリアを考えるのです。
キャリアアンカーは失敗や成功など、さまざまな経験を経て形成されるもののため、簡単に変わるものではないとされています。そのため、経験の少ない学生や新卒のうちは、自分の志向や適性がわからず、キャリアアンカーを定めるのは難しいかもしれません。
キャリアアンカーが注目される理由
キャリアアンカーは近年、キャリアを考える際の根幹として注目されています。これまでは、企業が求めるスキルや経験に、個人が合わせて働くのが一般的でした。しかし、企業の人材流動性が高まり、働き方に対する考えも変化していく中、受け身のままでは自分らしく働くことができませんし、企業は優秀な社員を失ってしまう可能性があります。
時代や環境は個人や企業の考えにかかわらず、変化していくものです。その中で、個人が自分らしく、パフォーマンスを最大限に発揮し、企業がそれを活かして発展するために、キャリアアンカーが重視されているのです。
では、キャリアアンカーを取り入れることで、個人と企業に具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
心から満足できる働き方が見つかる
一般的には高収入・好待遇の環境こそ良い職場とされていますが、必ずしもすべての人がそれで満足するとは限りません。中には、「高収入は望めないもののプライベートをしっかりと確保できる」「自分のやりたいことに没頭できる」といった条件のほうを好む人も少なくなく、それを見誤ってしまうと、日々大きなストレスを感じながら働くというような事態に陥ってしまうこともあるのです。
心の底から満足感を感じながら働ける仕事や職場を探すためにも、キャリアアンカーは大切な役割を果たしてくれるのです。
ミスマッチを防ぎ、社員のパフォーマンスが最大化する
企業がキャリアアンカーに注目する最も大きな理由は、社員のパフォーマンスの最大化でしょう。
社員のキャリアアンカーに合った業務やプロジェクトに配置することで、社員のモチベーションが上がり、パフォーマンスの最大化が見込めます。企業とのミスマッチを防ぐことになり、人材流出を防ぐことにもつながるでしょう。
キャリアアンカーの8つの分類
キャリアアンカーは、下記の8つに分類することができます。どれかひとつにしかあてはまらないわけではなく、複数が混ざっていると感じる場合もあるでしょう。その場合は、どの特性を強く感じるのか、優先順位はどうか意識して考えると、キャリアを選択する上で役立ちます。
1 管理能力(Managerial Competence)
キャリアアンカーが「管理能力」の人は、経営者やマネージャーを目指したり、集団を統率したりすることに価値を見いだします。専門的な職務よりもスケールが大きく、組織を動かすような仕事に興味があるとされています。
若いうちは多くの経験を積むために、職種変更を伴う異動を積極的に受け入れ、キャリアアップのための資格取得の努力も惜しみません。誰かの世話や問題解決などが好きな傾向があり、責任を持つことで成長するタイプです。
2 専門・職能別能力(Technical/Functional Competence)
キャリアアンカーが「専門・職能別能力」の人は、特定の分野のエキスパートを目指すタイプで、現場で活躍し続けることを好みます。専門性や技術力が高まることに意義と幸せを見いだし、専門家として能力を発揮する高い意欲を持っています。
技術職や研究職といった、知識とスキルを積み上げる職業に向いており、課題に向き合い挑戦を続けます。しかし、別の職種や向いていない仕事を任されると、仕事への満足度が下がる傾向があります。
3 保障・安定(Security/Stability)
「保障・安定」をキャリアアンカーとする人は、社会的・経済的な安定を求めるタイプです。大企業や公務員といった安定した組織に長期間所属することを望みます。リスクを回避することを優先し、将来が見通せる環境で堅実にキャリアを歩みたいと考えます。また、この特徴から危機管理やリスクマネジメントの分野において力を発揮します。
一方で、異動には大きなストレスを感じやすい特性があります。よほどのことがない限りは転職せず、1つの組織に忠誠を誓います。
4 起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity)
キャリアアンカーが「起業家的創造性」の人は、新しいものを生み出す起業家や芸術家、発明家タイプです。新製品や新サービスの開発、新規事業の立ち上げ、既存事業の再建などに関心があり、リスクを恐れずクリエイティブな挑戦を続けるでしょう。一度企業に就職しても、将来的に独立や起業を目指すケースが多く見られます。
刺激的な仕事が好きなので、困難な課題や変化の激しい状況に立ち向かうことに、モチベーションを見いだす傾向があります。
5 自律と独立(Autonomy/Independence)
キャリアアンカーを「自律と独立」に置く人は、自分のスタイルで仕事を進めることを重視するタイプで、組織のルールや規則に縛られることを嫌います。研究職や技術職に多く見られる傾向があり、自分が納得できる方法でマイペースに仕事に取り組みます。
裁量が大きい企業や、在宅勤務・フレックスタイムといった柔軟な働き方ができる企業で能力を発揮します。反対に、集団行動やルールを強制されたり、上司から強く叱責されたりすると、退職の意向が強まることがあるようです。
6 奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a cause)
「奉仕・社会貢献」をキャリアアンカーとする人は、世の中に貢献したいと考えるタイプで、仕事を通じて世の中を良くしていくことを目指します。自分の能力を発揮したり出世したりすることよりも、人の役に立つことに喜びを感じるでしょう。そのため、誰かを支援する医療、看護、教育系の仕事や、人のためになる商品・サービスの開発、監査部門、福利厚生部門で能力を発揮します。
社会貢献意識が強い分、誠意のない仕事や内部不正を見逃せません。
7 チャレンジ(Pure Challenge)
キャリアアンカーが「チャレンジ」の人は、困難に挑戦することやそこから受ける刺激に喜びを感じるタイプです。ハードワークにも対応できますが、ルーティンワークは好まず、仕事を覚えると違った業界に飛び込む傾向があります。一貫性なく、多様なキャリアを持つことになる人が多いでしょう。
困難をものともしないため、異動や配置換えにも前向きで、幅広い事業を展開する企業でさまざまなことにチャレンジすることに向いています。
8 ワークライフバランス(Lifestyle)
「ワークライフバランス」をキャリアアンカーに置く人は、仕事とプライベートを両立させられることを重視するタイプです。生活スタイルが確立していて、仕事には打ち込みますが、私生活を犠牲にすることはないでしょう。予定にない残業や、会社のイベントなどはきっぱり断るタイプです。
プライベートが充実すると仕事へのモチベーションが上がるため、フレックスタイムや育児休暇、在宅勤務といった制度が整った、柔軟な働き方ができる職場が向いています。
自分のキャリアアンカーを調べる方法
自分のキャリアアンカーを調べるためには、自分の志向や価値観を客観的に理解する必要があります。キャリアアンカーを診断できるツールもありますが、自分でタイプを判定することも可能です。
キャリアアンカーを分析するためには、まず3つの要素を考える必要があります。3つの要素を自分でどう考えているかによって、最も重きを置く価値観、つまりキャリアアンカーがわかるでしょう。
<キャリアアンカーの3つの要素>
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才能と能力(can):できること、得意なことや強み、弱みは何か
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動機と欲求(will):やりたいこと、望むこと、望まないことは何か
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態度と価値観(must):やるべきこと、人生やキャリアで何を重んじるか
3つの要素を踏まえて、まずは自分のこれまでを振り返ってみましょう。どのようなシーンでやりがいを感じ、どのような事柄が受け入れられないかを洗い出していきます。
このとき、仕事だけでなく、私生活も含めて考えることがポイントです。
自分自身のことは、意外と自分ではわからないものですから、職場の同僚や友人といった周囲の人たちとの会話を通じて自分を知ることも重要です。仕事上での強みや能力を発揮するシーン、他者との関わり方の傾向などをヒアリングし、認識を深めましょう。
キャリアアンカーを知るメリット
キャリアアンカーを知ることは、転職活動においてどのようなメリットをもたらすのでしょうか。ここでは、キャリアアンカーを知るメリットについて解説します。
自己分析で適職を知るきっかけになる
自分の将来的なキャリアを考える際には、ぶれない軸を持っておくことが重要です。譲れない価値観であるキャリアアンカーは、この軸になりうるものといえます。
「スキルが活かせると思って転職したが、思うように力を発揮できない」あるいは「何かを変えたいと思って転職活動をしたはずなのに、転職後も前と同じ不満がある」といったミスマッチが起こるのは、転職で何を実現したいのかを示す軸を、自分で把握できていないからです。
キャリアアンカーは、経験とともに変化して次第に形成されていくもの。ライフスタイルが変化したときや、自分の現状に疑問を感じたときにキャリアアンカーの診断をすると、思いがけないような自分の強みに気づくこともあります。
キャリアアンカー診断は、従来の価値観では見つけることのできなかった適職を知るきっかけになるはずです。
キャリアの棚卸の質が高くなる
キャリアアンカーを知ると、自分が何をもって意思決定をしているのか、自分の欲求の根源がどこにあるのか、どんな強みがあるのかを客観的に、かつ深く理解することが可能になります。
キャリアアンカーを知ることで、転職活動前に行うキャリアの棚卸でも、見えてくるものが違ってくるでしょう。これまでは強みとして認識していなかったスキルが、自分と他者との差別化ポイントであると気づいたり、自分が本当は何を大切にして仕事をしてきたのかが、これまでの経歴から見えてきたりするはずです。
これによって、キャリアの棚卸の質が高まり、転職活動をしていてもぶれない軸を構築することができます。
キャリアの棚卸についてはこちらの記事もご覧ください
キャリアの棚卸とは?スキルの振り返りが転職活動に必要な理由、やり方解説
キャリアアンカーを転職活動に活かすときの注意点
キャリアアンカーは、あくまでも個人のタイプを知るための分析です。個人の良し悪しを決めるものではありません。自分の心の奥を知り、ビジネスパーソンとして進む道を確立する手掛かりとして利用してください。
ここでは、キャリアアンカーを転職活動に活かすときの注意点について解説します。
キャリアアンカーを仕事に直結させない
前述のとおり、自分のキャリアアンカーを知ることは適職を知るきっかけになります。ただし、キャリアアンカーは、あくまでも個人の仕事に対する価値観を明確にする自己分析手法です。向いている職種の傾向を表すものではないので、キャリアアンカーをもとに「自分に合った職種」「自分がやるべき仕事」を探すのは、活用の仕方として適切とはいえません。
キャリアアンカーにもとづいて紹介された仕事例だったり、キャリアアンカーの説明の中で例示されていたりする職種は、あくまでも参考程度に捉えることが大切です。
一度の診断結果だけが絶対的な分類ではない
過去の経験から形成されるキャリアアンカーは、一定年齢以上になると変化しにくくなります。変化しにくいからこそ、将来のキャリアプランを決める際の指針として活用できるともいえるでしょう。しかし、30歳前後まではキャリアアンカーが変わる可能性もあります。
初めての就職で最初はがむしゃらに働いていた人も、成功体験と失敗体験を繰り返して経験値を積み、組織の中でできることを知っていきます。さまざまな業務を経験する中で、何が得意で何が苦手か、おもしろいと感じる仕事と退屈な仕事の区別もついていくはずです。20代前半で社会に出たばかりの頃と、10年程社会に揉まれて経験を積んだ後では、仕事に対する考え方が変わるのは当然といえます。
ですから、一度のキャリアアンカーの診断結果だけを、絶対的な答えとして信じることは危険です。仮に、20代前半の早い段階で診断した場合でも、キャリアアンカーの結果に縛られないようにして、30歳前後で見直す必要があるのです。
キャリアアンカーを参考に、自分らしいキャリアを描こう
自分自身が心から満足し、輝けるキャリアを描くには、自分が仕事をする上で大切にしている思いや考え方を把握しておく必要があります。
キャリアアンカーは、キャリアに悩んだ際に自身の軸となってくれるものであり、キャリア選択に悩む人を導いてくれるものです。後悔のない転職をするために、まずは一度立ち止まり、自分自身の現在地や将来の道をじっくり見つめる時間を持ちましょう。
RGFプロフェッショナルリクルートメントジャパンでは、キャリアアンカーにマッチした適職探しを、経験豊富なコンサルタントがお手伝いしています。「グローバルに働いてみたい」「より自分が輝ける場所で働きたい」「自分の選択肢を広げたい」といった人は、ぜひ一度ご相談ください。
グローバル企業で働くことは、グローバルに働きたい人や語学力を生かして働きたい人だけでなく、自分の可能性やワークライフバランスを求める多くの方にとって、多くのメリットがあります。
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