めざましい技術革新や、働き方に対する価値観の多様化、新型コロナウイルス感染症の流行に代表される予測不能な社会の変化などによって、未来の予測は日々困難になりつつあります。不確実な明日に向かう中、理想どおりのキャリアをつかむには、主体的な「キャリア形成」に取り組むことが必要です。
本記事では、キャリア形成の概要や取り組む必要性、メリットなどを解説します。併せて、キャリア形成に必要な能力と、具体的な方法について見ていきましょう。
キャリア形成とは、職務経験・職業能力を積み重ねて自己実現していくこと
キャリア形成について考えるにあたって、「キャリア」の意味を確認しておきます。
厚生労働省は、キャリアを「経歴、経験、発展、さらには関連した職務の連鎖等と表現され、時間的持続性ないし継続性を持った概念」と定義しています(2002年7月、厚生労働省「『キャリア形成を支援する労働市場政策研究会』報告書について」)。つまり、キャリアは過去から現在までの職務経験、およびその経験の連鎖の中で作り上げられた職業能力を指す言葉ということも可能です。キャリアを積み重ねていくことによって職業能力が蓄積され、その職業能力をもとにさらなるキャリアを積み重ねていけるということです。
このようなキャリアの積み重ねを、人生の中で取り組むべきことのひとつと捉え、主体的に必要な能力を身につけたり、経験を積み重ねたりして自己実現していくことをキャリア形成といいます。
キャリア形成と似た言葉との違い
キャリア形成とよく似ているのが、「キャリアデザイン」「キャリアプラン」「キャリアパス」といった言葉です。それぞれ、キャリア形成とどのような違いがあるのか、確認していきます。
キャリアデザイン:プライベートも含めた将来設計
将来的になりたい姿を、プライベートの在り方も含めて設計するのがキャリアデザインです。キャリアデザインは、仕事における昇進や昇給はもちろん、子供が生まれた後の働き方や育児との両立の仕方、年老いていく両親の介護など、プライベートとのバランスも考えていく点で、キャリア形成とは異なります。
キャリアプラン:仕事の目標を達成するための具体的な行動計画
キャリアプランとは、これからの仕事にフォーカスして、目標を達成するための具体的な行動計画のことです。目指す将来像を実現するためにやるべきこととその期限を設定するもので、キャリアプランを実現するために、キャリア形成によって経験・能力を積み重ねていくことになります。
キャリアパス:ひとつの企業内で目標となる職務への道筋
キャリアパスは、ひとつの企業の中で目標とするポジションや職務に就くための道筋のことです。企業内でのキャリアを実現する手段として、企業側が提示します。
キャリア形成を考えていく上で、ひとつの企業でどのようにキャリアを積み上げていけるかというキャリアパスは、必ず把握しておかなければなりません。
キャリア形成すべき理由
キャリア形成の必要性は、時代の変化とともに高まっています。特に、下記の3つのような理由から、近年ではその必要性は飛躍的に高まっています。
AIなど、先端技術の発達による職業の変化
ICTの進歩はめざましく、さまざまな分野でIoT・ビッグデータ・AI(人工知能)などの利活用が急激に進む昨今。ICTの発展は、私たちの暮らしを便利にする一方で、雇用に影響を与える可能性が高いことが以前から指摘されてきました。雇用への影響としては、ICTの利活用によって新規事業が創出され、雇用が生み出されるプラスの側面と、ICTが人の仕事を代替していくマイナスの側面が考えられます。
全体的に見れば、ICTによる代替で企業の生産性が向上し、コスト削減や付加価値向上につながる面もありますが、定型的な業務については代替によって雇用が喪失することになるでしょう。これまで「機械による代替が不可能」とされてきた業務についても、ICTがさらに進化すれば代替される可能性が高いといわれています。
「人でなければできない仕事」が減っていく中、安定的なキャリアを築くには、先を見越したキャリア形成が重要です。
終身雇用・年功序列の崩壊・変化
これまで、終身雇用や年功序列が主流だった日本企業において、キャリアは自社の組織の内側に向いた、閉じたものでした。自社内で昇進していくことがキャリアの主眼であり、多くの人は社内におけるステップアップのためのキャリア構築に奔走してきたのです。
しかし近年、終身雇用や年功序列の仕組みはほぼ崩壊し、いわゆる良い会社に入りさえすれば定年まで安定して働ける時代ではなくなりました。会社にキャリアを依存するのではなく、自分の価値観や信念に沿った自主的なキャリア形成を誰もが考えなければならない時代になったといえます。
働き方の多様化
終身雇用や年功序列の崩壊は、働き方の多様化という変化ももたらしました。自分のやりたいこと、実現したいことを求めて転職したり、フリーランスになったりする人も多く、ひとつの企業で働くこと以外の在り方を考えるのは当たり前になりつつあります。
また、格差の拡大や人口減少などにより、労働者がそれぞれの価値観やライフスタイルに沿って自分らしい働き方を模索するようになったことも、働き方の多様化を加速させています。定年の概念に捉われることなく働き続ける人も増えており、自由なキャリア選択によって多様なライフステージで活躍できるスキルを身につけることが、重要な時代になったといえるでしょう。
キャリア形成のメリット
キャリア形成を行う長期的なメリットは、上記のような社会的な変化や課題に対応し、長く働き続けられることです。ほかにも下記のように、短期的な視点でもメリットがあります。
自分が目指すべき未来と、今やるべきことがわかる
無我夢中で働いていると、自分が何に向かっているのか、何になりたいと思っているのかが曖昧になり、将来像が見えなくなることはよくあるものです。
進むべき未来に迷ったときにキャリア形成の内容を見返すと、「実現したい未来」を再確認でき、「今すべきこと」がわかります。
自分の強みや役割がわかる
日々の仕事に追われる中で、自分を客観的に見る時間を作るのは難しいものです。特に、自分の弱みはミスやトラブルにつながるためわかりやすいですが、強みや役割については、顕在化しないため自分で気づくのは難しいでしょう。
キャリア形成について考えると、否が応でも自分を客観的に見直します。その結果、成果を出せている理由や評価される理由について深く考えることができ、自分の強みや組織に求められる役割に気づけます。
スムーズに転職できるようになる
転職活動では、積み上げたキャリアを詳細に分析し、志望企業で活かせる自身の強みを踏まえて志望動機を形成することが重要です。キャリア形成にしっかり取り組んでおくことで、アピールすべき点や強みがわかり、転職軸に沿った転職がしやすくなります。
キャリア形成に必要な能力
キャリア形成のためにはスキルを向上させ続けることが必要になりますが、その前提として持っておかなければならない能力があります。特に、下記のような能力を磨くことは重要です。
人間関係構築力
インターネットが発達し、テレワークが浸透してリアルで会話をする機会が減ったとしても、周囲との関わりなくして仕事はできません。相手の感情やニーズをくみ取り、ビジネスの場にふさわしいコミュニケーションをとりながら関係性を構築していく力は、円滑に仕事を進めてキャリアを形成していく上でカギとなる能力です。
自己研鑽力
キャリア形成は、従来は組織任せにすることが多かったキャリアの道筋を自分で見つけ、その実現のために努力しようとする人が取り組むものです。常に自分の内側に目を向け、できないことをできるように、できることの質をより高められるように努力できる力は、キャリア形成に欠かせません。
課題発見力・解決力
現時点での自分の課題に気づき、それを解決することで人は成長します。したがって、現状の自分に満足してしまい、みずからの課題に気づけない人は、キャリアを形成することができません。失敗しても深く原因を考えず、改善に取り組まない人も同様です。日常の些細なことでも、改善点や問題点を見つけ、解決する方法を模索・実行できる人は、スムーズにキャリア形成を進めることができるでしょう。
計画実行力
ゴールを設定して、着実に歩んでいくことでキャリアは形成されます。無計画な人や、計画を立てても実行できない人は、キャリア形成も中途半端になる可能性が高いといえます。目標を立てる力と、立てた目標を確実に遂行する力を磨くことが重要です。
洞察力
洞察力とは、物事をよく観察し、本質を見抜く力です。相手の本音や、隠れたニーズを見いだす力と言い換えてもいいかもしれません。表面化している課題だけでなく、関係者や周囲の環境が抱えている本質的な問題に気づき、改善を図れることは、自身の能力を向上させてキャリアを形成していくために必須といえます。
キャリア形成の手順
キャリア形成をしていこうと考えて闇雲に行動しても、うまくいく可能性は低いでしょう。キャリア形成は、下記のような手順で進めると成功率が高まります。
1. 自己理解を深める
キャリア形成のベースとなるのが、「現在の自分」です。キャリア形成は、今の自分と将来の理想像とのギャップを埋め、最終的にキャリアを実現するために取り組むものだからです。そこで、「自分はどんな人間か」「自分に何ができるか」を考えるところから始めます。
自己理解を進める際には、「Will」「Can」「Must」を使うフレームワークが一般的です。
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Will:やりたいこと
仕事において将来実現したいこと、やってみたいことがWillです。志向性、夢などの言葉で言い換えられることもあります。例えば、「いずれは経営に携わりたい」「上流工程を任せてもらえるエンジニアになる」といったことを考えていきます。 -
Can:できること
Canは、仕事において、自分の能力やスキルを使って何ができるか、ということです。自分ができることを把握できれば、自分の強みに沿った仕事を見つけやすくなります。 -
Must:やるべきこと
Mustは、周囲からの求めに応じて、自分がやるべきことです。Mustについても考えを深めることで、自分の能力を発揮できるポジションや、高い評価が得られるポジションを把握できます。
2. なりたい自分を考える
Will、Can、Mustを使って確立した「自分」は、キャリア形成のベースです。ベースをもとに、なりたい自分を探しましょう。できるだけ具体的に理想を描けるよう、身近なロールモデルを探すのがおすすめです。
先輩社員や上司など、「あんな働き方をしたい」と思える人の言動を参考にすると、足りないものを見つけやすくなります。
3. なりたい自分になるための計画を立てる
理想の自分やなりたい自分になるためには、するべきことを段階的に設定しなければなりません。ロールモデルと自分を比較してわかった「足りないもの」をピックアップし、それらを身につけるためにできることは何かを考えていきます。その上で、スキル獲得のための行動を始めるタイミング、スキルが身につくまでの期間などを想定して、成長の計画を立てます。
最初から大きな目標を立てると挫折しやすいため、小さな目標をいくつか立てて、着実にクリアしていくのがおすすめです。
なお、計画の立て方は、具体的な目標がある場合と、目標が漠然としている場合で異なります。前者は、山登りに例えると山頂にゴールが設定されているのと同じです。最短かつ効率的にゴールに到達できるステップを考えましょう。それぞれのステップでかかる年数についても、できるだけ具体的に考えておくことが重要です。
後者は、登る山がまだはっきりと見えていない状態なので、目の前の仕事に真摯に取り組むことでスキルを蓄えるところから始めます。多様な経験を積み、スキルを身につける中で目標が見えてきたら、あらためて計画を立ててください。
4. なりたい自分になるために必要なものを考える
キャリアを形成する道筋を考えたら、その道筋で必要となるスキルを考えるのが次の段階です。
「キャリア形成に必要な能力」の項目でふれたスキルは、最低限必要なスキルです。ほかに必要なスキルについて、インターネットや書籍などで調べます。
5. 必要なスキルや能力を得るための方法を考える
最後に、スキルを身につけ、能力を磨くための具体策を考えます。一般的には、下記のような方法が考えられるでしょう。
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資格取得に取り組む
キャリア形成の過程で有利になりそうな資格をリサーチし、取得を目指します。すぐに合格を勝ち取ることができなくても、資格取得のために勉強する過程で新たな知見や考え方が身につき、キャリア形成に役立つはずです。 -
外部の研修や講座を受講する
企業内の研修制度などは、現職でのキャリアアップに役立つ訓練であることが多く、自社内でのキャリアパスの確立にはつながりますが、社外にも通用するスキル獲得には役立たない可能性もあります。
転職を選択肢に含めたキャリア形成を考えている場合は、プライベートな時間を使って外部の研修や講座も受講することをおすすめします。自社内に閉じず、広くキャリアの可能性を検討することが重要です。 -
裁量権がある仕事を選ぶ
裁量権が大きい仕事を選ぶことも、キャリア形成には効果的です。そのためには、自社内でより責任のあるポジションを任せてもらえるように異動希望を出したり、一人ひとりに任される業務量や仕事の幅が大きい企業に転職したりするという方法があります。
転職する場合、大企業よりもベンチャー企業のほうが、裁量権が大きく多様な仕事を経験できる傾向があります。
キャリア形成をするときの注意点
キャリア形成に取り組む際には、失敗しないためのポイントを押さえておかなければなりません。下記のような点を意識すると、自身にとって理想的なキャリアを形成しやすいでしょう。
ポジティブに考える
キャリア形成に取り組むと、目の前の壁が高く、ゴールまでの道のりが長く感じられ、「無理かもしれない」とネガティブになってしまうことがあります。
キャリア形成はできるだけポジティブに考えて、未経験の分野を楽しみながら新たなスキルを習得していくことが継続のコツです。
ロールモデルを見つける
目指すキャリアを体現している人をロールモデルに設定することで、目標実現までの最短距離を導き出せます。身近な上司や先輩からではモデルが見つからない場合は、取引先や読んでいるビジネス本の著者などにも視野を広げて、手本になる人を探すのが有効です。
やりたくないことを考える
やりたいことが見つからないときは、やりたくないことから考えるという方法もあります。例えば、「プレッシャーに弱いので、毎月目標を課されるような社風は向いていない」など、したくないこと、やりたくないことをリストアップすると、逆説的にやりたいことをイメージできるようになります。
キャリアプランは定期的に見直す
仕事に対する価値観や、働く環境は少しずつ変わっていくものです。キャリアプランは、最初に立てたものから変化しても問題ありません。変化に応じてキャリアプランを見直すという選択肢も、視野に入れておくことが重要です。
周囲と比べたり流されたりしない
キャリア形成においては、「自分のキャリア」を意識することが大切です。うまくいっていそうに見える他人やロールモデルの順調なステップアップと比較して自分を卑下してしまうと、挫折感で前に進めなくなってしまいます。自分なりのスピードで、着実に進んでいくことが何よりも大切です。
悩んだ場合はキャリア形成のプロに相談する
キャリア形成に悩んだら、一人で抱え込まずプロに相談するのも手です。多くの人のキャリア形成をサポートしてきた転職エージェントなら、自身に合ったキャリア形成についての適切なアドバイスをもらえるでしょう。
不確実な未来にも対応するために、キャリア形成に取り組もう
不確実な未来に向かう日本において、キャリア形成は重要です。周囲の環境に振り回されることなく自分らしい働き方を実現するために、今日からキャリア形成に取り組むことをおすすめします。
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