元・外資系人事部長、現グローバル人材プロデューサーの鈴木美加子です。今回は転職経験のある方向けに「軸をずらして転職する」をテーマにコラムを書きます。 

人生100年時代、社会人人生は長くなる一方です。最後まで会社員を続けるのであれば、人材として自分の価値を上げる工夫が大切です。自分の専門性がある時、経験値を捨てて異なる分野に挑むのは勿体無いですし、非現実的かもしれません。 

これまでの経験値を活かしながら、少し軸をずらすことで新しい分野への道が拓いた実例を3人紹介します。 

実例①

まず一人めは、外資の金融のエグゼクティブです。米系投資銀行で23年業務部にいました。海外に赴任した翌月にリーマンショックが起こり失職。この先、二度とこのような目に会わないためにはどうしたら良いか、かなり真剣に考えたそうです。 

彼女は自分の経験を活かしながら、需要はあるのに人材の供給が追いついていない職業は何かを考え抜きました。帰国して外資銀行のAML (Anti Money Laundering) の部長として再就職しました。私にはまるで違う分野に転職したように映りましたが、実は業務部で必要だった資質・スキルとほぼ同じ内容が求められる仕事だそうです。 

ネットの発展でサイバーセキュリティーの分野は人材不足で、業界の経験がないことは不問だったそうです。外資金融のバックオフィスの中で軸をずらして、自分の価値を高める方向に動けた例です。

実例②

二人めは長い間、日系の損保企業に勤めたのち、米系の保険会社に転職し、ヨーロッパの宇宙ビジネスベンチャーに転職しています。保険から宇宙。不思議な転身に思えますが、こちらも軸をずらした転職です。彼が勤務している宇宙ビジネス企業は、自然災害を宇宙衛星から撮影して保険会社に提供しています。 

彼の保険の知識、保険業界にコネがあり顧客をすぐ見つけられることが大きな強みとなり、一見全く違う業界のように見える最先端ビジネスに転職することができました。 

実例③

三人めはガイアの夜明けに出ていた漆の金継師です。彼は20年前、漆器職人としてアーティスティックな漆器を創る作家でした。たまたま知り合いから、割れてしまった思い出がある陶器を金継で直して欲しいと頼まれました。この経験が彼にキャリアチェンジのきっかけを与えます。 

自分がゼロから作った美しい漆器を買ってくださったお客様より、割れた陶器を直してもらったお客様の方が遥かに嬉しそうにしているのを見て、「これだ」と閃いたそうです。 

王道を歩んでいる漆器職人が修復専門になると決めたことで、周囲から心配されましたが、彼は自分の直感を信じて耳を貸しませんでした。20年経ち、漆器産業の規模が半分以下になった今、彼は漆器職人たちから羨ましがられています。日本に金継ぎで生計を立てている唯一無二の存在だからです。うるし職人の技術を活かしながら軸をずらすことで、新しい分野を切り拓き自分を競争相手があまりいない、ブルーオーシャンに置くことに成功した素晴らしい例です。 

まとめ

皆さんの今の仕事に何を付け加えたら、人材としての価値を高めることができるでしょうか。語学力・ある特定の国についての知識・海外経験など、いろいろ考えられるはずなので必要な知識・経験のレベルを上げていきましょう。そもそも、自分がいる業界の将来が不安な場合もあるでしょう。経験値を活かしながら新しい分野に転職することは可能でしょうか。転職回数がそれなりにある候補者が次の転職をする際、ぜひ考えたい項目です。競争が激しいエリアで頑張る生き方を選ぶのもありですが、最初から競争相手があまりいない場所に自分の身を移し、効率良くストレス低く働くことも懸命な戦略です。 

いますぐ転職を考えていなくても、日頃から考えていないと転身は難しいので自分を棚卸すること、現職の重要と供給のバランスを冷静に振り返ることはしておきたいです。長くなる社会人としてのキャリアを最後まで豊かに送るには、人材としての価値を上げる努力が肝心です。 

プロフィール 

Mikako (Micky) Suzuki (鈴木美加子)

株式会社AT Globe 代表取締役社長　　

GE、モルガンスタンレーなど外資系日本法人の人事部を転職し、油圧機器メーカー現・Eaton)ではアジアパシフィック本社勤務、日本DHLでは人事本部長を務める。１万人以上を面接した経験を元に、個人向けに キャリア相談を提供している。自身が転職を８回しており、オーストラリアでビザ取得に苦労した体験もあるので、日本国内外、すべての転職相談に対応できるのが強み。

診断ツールLUMINA SPARK & LEADER 認定講

STAR面接技法 認定講師

ホフステード6次元異文化モデル　認定講師

お茶の水女子大学卒業。

著書

2019「やっぱり外資系がいい人の必勝転職AtoZ」(青春出版）

2020年6月「1万人を面接した元・外資系人事部長が教える 英文履歴書の書き方・英語面接の受け方」（日本実業）