インタビュアー: Haruka Toshikawa, Masaki Murata
制作: RGF Professional Recruitment Japan Marketing Team
近年、世界を取り巻く変化により、自動運転やEV化といった新しいトレンドへと急速に変わりつつある自動車業界。その中で、ディーゼルエンジンの研究から始まり、現在は世界中の自動車メーカーの開発支援を手掛けているAVL社の日本法人、AVLジャパンの米玉利社長にお話を伺ってまいりました。
本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。
早速ですが、米玉利社長のこれまでのご経歴を教えていただけますか?
AVLジャパンの米玉利と申します。米玉利というのは全国で200人くらいしかいないみたいでして、割と珍しい名前です。
1986年に九州大学の工学部動力機械工学科を卒業して、日産に入社しました。大学の卒業論文のテーマがディーゼルだったこともあって、ディーゼルエンジンの開発を長く担当していまして、ディーゼルエンジンの開発のトップであるチーフエンジニアとしても働いていました。日産ではそれ以外にも、ガソリンエンジンの開発や、リソースマネージメントを担当したり、車両の企画をする車両のプログラムダイレクターとして、車両全体の計画や収益を司る役割を担ったり、スペインとフランスで合計6年間仕事をしたりしていました。最終的にAVLへ移る前は、パワートレインEV開発部門の副本部長として、プロジェクト軸の責任者をしていたのですが、去年の4月にAVLジャパンに転職してきました。
AVLにご入社された経緯を教えていただけますか?
昔から、パワートレインに関わっている者からすれば、AVLを知らないはずがないという会社でした。
私自身も元々AVLを知っていましたし、日産時代やルノーへ出向していた時期にAVLと一緒に仕事もしていたので、AVLの技術力に対して、非常に敬意を払っていたというのがあります。
一方でAVLサイドからは、私のいろいろな技術をやっていた経験や、マネジメント経験、海外経験、というのが目に留まったようでして、縁あって去年転職をすることになりました。
AVLは技術を分解した一番基礎的なところから向き合っている
AVLについて教えていただけますか?
AVLの創業は1948年です。Hans Listという方が開設したディーゼルエンジンの研究機関内燃機関研究所(Anstalt fuer Verbrennungsmotoren List)の頭文字をとってAVLと名付けられたと言われています。1992年以降の売上げだけをみても、リーマンショックとコロナ禍で少し落ちた時期を除き、順調に伸びてきている会社です。
AVL提供資料より抜粋
業務内容としては、エンジニアリングが基幹だと私は思っています。研究所だったころも含め、ここで開発技術を高めています。内燃機関はもちろんですけれども、駆動系、それからパワートレイン全体のシステム、今ではハイブリッドや、EV、バッテリーといったところにも取り組んでいます。
このエンジニアリングを軸としながら、お客様のサポートのためのシミュレーション用ソフトウエアを担当するASTというチームと、ASTが開発するソフトウエアを有効活用するための設備や、センサーなどを開発していくITSというチームの3軸でビジネスを行っています。
この3軸をうまく回しながら、今では自動車のみならず、様々な開発を総合的にサポートしています。正直AVLは、製造工場さえ持てば、いつでもクルマを作れると言うような会社でもあります。
もともとエンジニアリングを強みとしていたところから、それ以外の部分にもシフトしていっているという事ですね。
もともとは内燃機関から始まっているのですが、ハイブリッド用エンジンも含め、いわゆるエンジンというのは現在おおよそ売上げ全体の3分の1くらいです。
そのほか、電動化に伴うバッテリーやモーター、インバータ、DCDCのようなものの開発が3分の1以上、VehicleやADASに関わる安全運転や追従運転、自動運転といった領域が3分の1くらいです。
いまだに昔ながらのエンジン自体も極めて強いところではありますけれども、それ以外の領域にもどんどん強みを広げています。
様々な領域にビジネスを広げていますが、人材のマネジメントという部分ではどのように対応されているのでしょうか?
AVLという会社は、技術をコンポーネントや、製品で見ていない会社であると私は思っています。技術を例えば構造物の強度、耐久、摩耗、摩擦といったレベルで技術分解していくと、特段エンジンだから、モーターだからということで大きな差は出てきません。
もちろん「電流を何ボルト流して」のような部分は違うのですが、そこは勉強すればできる話で、結局AVLは技術を分解していった一番細部のところから取り組んでいるので、そこを軸に領域を広げていくことが出来ます。
すべての領域において、基本的に根っこの技術はかわらないので、AVLが会社として持っている技術が深い分、人を他の領域に移すということがわりとスムーズに出来ているのではないかなと考えています。
社員の方がしっかりとした技術を持っているので、もともといた社員の方が異動して今までとは違った領域を担当出来るということですね。
そういった社員も多数います。ただし、これだけ売上が伸びている状況においては、社員の異動だけでは賄いきれないので、必要に応じて会社の買収なども行ってきました。特に設備系は、一から作ろうとするとかなり大変なので、買収した会社も一定数あります。
ですが、エンジニアリングの軸になるような人は、基本的に社内で異動しています。そういった人が中心となることで、買収した会社においてもAVLのやり方というものが浸透出来ているのではないかなと感じています。
AVLは次世代の仕事に対し、積極的に投資をしている
新川崎 ジャパンテクニカルセンター(JTC)
AVLは、たとえば電動化に対応するために、バッテリーの試験のラボだったり、Fuel Cellという燃料電池だったり、バッテリーの製造工程まで見られるようなイノベーションセンターだったりを、わずか3年程で次々に建てるぐらい、惜しみなく次世代の仕事に対して投資をしています。
それ以外にも、オーストリアのグラーツにあるAVL本社から130キロしか離れていないハンガリーのザラゾーンという場所に、昨年テストコースを作りました。
個人的に面白いなと思ったのは、通常このようなテストコースを作ると、外側は高速周回路だけになるのですが、このコースは途中に大きなラウンドアバウトを作っています。このようなラウンドアバウトをコースに組込むことで、より実用的な評価をすることが出来ます。もちろん高速でも走るのですが、より実用的にするにはということをしっかりと考えて作られた、近代的なテストコースとなっています。こういったことをしっかりと技術分解できて、計画的に投資をしていくというのはAVLの強みですね。
グローバルおよび日本からの視点で見たAVLはどのような会社でしょうか?
ヨーロッパに32の開発拠点を持っていて、その他、アジア、アフリカ、北米、南米を含めて45の開発拠点を持っています。簡単に言うと、自動車の開発会社があるような地域には必ずAVLがいると言うことです。
日本について言うと、1995年に設立をしていますが、実はそれ以前から仕事はしていまして、1969年に日野自動車さん、その後日産ディーゼルさんと、ディーゼルエンジンの仕事を行っています。そこから順調に伸びていき、現在は従業員320名ぐらいの会社です。
AVLと似たような開発サポート会社は他にもあるのですが、唯一AVLだけが実際に設備を回しているというのも特徴のひとつです。日本で言うと、新川崎にジャパンテクニカルセンターを2016年に立ち上げました。このセンターはお客様を直接支援していくうえで非常に有効ですし、日本において我々の技術力を維持するための大切な設備だと思っています。
もともとAVLというと、パワートレインというイメージが強い中で、なぜビジネスを広げていくことが出来たのでしょうか?
私が見る限り、AVLの洞察力と意思決定の早さが理由だと思っています。
例えばバッテリーEVの開発は、2010年には本格的に参入できています。もちろん、他社を見ると、日産自動車がリーフを出したのは2009年くらいなので、特別に早かったわけではないかもしれません。
けれども、我々のような開発サポート会社としてはかなり早い時期から参入を決めている。それが出来た理由の一つは、やはりオーナー会社なので、List会長がGoといえば、すぐGoになるということです。
このようなスピード感が、これだけ早いタイミングで業務拡大およびシフトが出来た要因のひとつだと思っています。
また、それぞれのエンジニアが周りをよく見ていて、この先どうなるかをきちんと洞察出来る人間が社内にいます。そういったきちんと洞察できる人と、意思決定の早さがうまく融合したことで、スピード感を持ってビジネスを広げていくことが出来ていると思います。
自動車業界における環境変化、特に、電動化や自動運転に向けたAVLの取組み、将来的な展望を教えてください。
言わずもがなですが、電動化はひとつの重要なファクターです。たとえば乗用車だけ見ても、35年には5割強が電気自動車になるだろうと言われていますので、電気自動車はぐっと伸びてくるはずです。その他のハイブリッド型も引き続き堅調に維持されていくだろうと言われています。
それ以外にも、Hardware defined vehicleからSoftware defined vehicleと言われていますが、これまで各コンポーネントや機能を別々に開発していたものを、今後はまず車全体を考えて効率を上げていく必要があります。
バッテリーの冷却系ひとつとっても、どこを冷やす、温めるといったものを様々なパターンにおいてすべて効率化するためには、やはりクルマ全体で見た上でコンポーネントに振り分けるという考えが必要になってきます。しかし、そういった考え方に、古くから自動車を作っている会社は、組織も含めてなかなか適応しづらいわけです。
一方で、エンジンだけをやっていて、そこから仕事を広げてきた我々は、どこにもバリアーがありません。だから、このような考えで最初からできますよというのが我々の強みなのです。
環境変革でもうひとつ挙げるとすると、これまでは自動車産業がモビリティをやっていました。ただ、今後はこれまで以上に新規参入してくる企業が出てくるはずです。特に、中国では、常に新規参入企業が出てきているので、競争は今後さらに増してくると考えています。
少し違った見方で言うと、エネルギー産業での需要が、今後さらに拡大していくだろうと考えています。具体的には、水素エンジンを使うための開発や、バッテリーを使って他のことをやるためのバッテリー開発です。
だから、そういうところにもやっぱり目を向けていかなきゃいけないと考えたときに、AVLが普段から行っている、車両全体を眺めてコンポーネントに落とし込めるという特徴は強みのひとつだと思います。
加えて、AVLがいることで、開発を上流シフトすることが可能で、結果として開発期間の短縮が出来ます。そして、そういったところに対するサポートをしっかりとするための技術開発は会社としてしっかりと行っています。
自動車だけでなく、エネルギー産業ビジネスも含め、AVLとしてもCO2の削減や、地球温暖化のサポートを始めていますし、今後より強化していかないといけないという自覚を持っています。
AVLは今後のモビリティ開発も含め、新しい世界に取組んでいける会社である
繰り返しになりますが、AVLの強みは、対応できる範囲と総合力だと思っています。3つの部門を複合的に活用することで、車の開発が出来ますし、あるいはモビリティ産業に総合的に貢献することが出来ます。
部門部署の壁がなく、必要新技術に対しての先見性も持っています。妥協のない開発と投資を意思決定早く行っていますし、個々の技術力の高さ、深さ、応用力もあります。
そして、開発会社ならではの特徴なのですが、AVLは技術分野においての多様性を持っています。通常完成車メーカーの場合、例えばEVの基本スペック開発において、工数やサプライヤの制限などから精々2仕様くらいしか開発できません。しかし、AVLは数多くの完成車メーカーと一緒にお仕事をしているので、たくさんのバリエーションの技術を扱うことになります。このようにたくさんのバリエーションに触れることで、一つひとつの強みや弱みを知ることが出来ることは強みかなと思っています。
最後に、AVLはグローバルに拠点を持っているので、例えばある完成車メーカーがこの車種のこのバッテリーをグローバルでそれぞれ似たようなスペックを作りたいみたいな話があったときに、日本が中心になってグローバル展開することが出来る環境があります。
AVLがより成長していくうえで、どのような人材が必要でしょうか?
まずは、やるべきことをやるべきときに、きちんとやり遂げる責任感のある人。これがないとお客様の信頼を得ることが出来ません。
そして、技術営業であっても、技術そのものをやる人間であっても、やっぱり技術が好きであって欲しい。そうでないと、技術の議論が表面にとどまってしまいます。
3つ目は、技術変化に対して柔軟な方。私は4気筒エンジンを担当していたので、6気筒エンジンはわかりませんというタイプではなく、エンジンの基本をわかっているので、何でも出来ますみたいなタイプですね。
4つ目は原理や機能で考えて応用力を持った人。
そして、5つ目はお客様のニーズを的確に掴んでサポートする能力。ただ、これは極めて難しいので、入ってから学んでいただければ良いかなと思います。
6つ目が自ら動ける人。AVLは新人を雇って育て上げるという文化の会社ではなく、必要な人材を必要に応じて採用する会社です。ですので、自分の仕事を行うために必要なネットワーク作りやコミュニケーションを取ろうというポジティブなアクションがないと、孤立したままになってしまいます。しっかりと仕事が出来るよう、遠慮なく図々しいほど動ける人が良いかなと思います。
7つ目はグローバルの寛容性。オーストリア人やドイツ人は日本人にとって付き合いやすいとはいえ、やはり違う文化の人なので、そこに対する寛容性がある人でないとうまく行かないこともあるかもしれません。
最後に、英語力のある方。やはり英語はコミュニケーションに必要なので、きちんとコミュニケーションを取れるというのは重要な要素です。加えて、日本語的発想ではなく、きちんと主語を言うといったような英語的発想ができればいいかなと思っています。 ただし、ポジションによっては、ご入社時の英語力を不問としているポジションもあります。AVLに興味があるけど英語が心配という方は、ぜひご相談ください。
最後に今後AVLへ転職をお考えの方へメッセージをお願いいたします。
繰り返しになりますが、AVLはエンジンだけでなく、電動化、あるいは自動運転Vehicleの方にかなりシフトしている会社ですし、技術という意味でも、かなり高いレベルで持っています。
ヨーロッパというのは、もともと自動車産業やモビリティの技術を世界的に見てもかなりリードしていると思っています。そのヨーロッパの中でも、AVLは技術をリードしてきました。もっと言うとAVLの技術レベルによって、レギュレーションが決まっているみたいなところもあるわけです。
私たちはそういった会社なので、今後のモビリティ開発も含めて、新しい世界を見てみたいと思う人は、ぜひ一緒に働きましょう。
ありがとうございました。
クライアント情報
企業名:AVL Japan K.K.
本社:〒211-0004 神奈川県川崎市中原区新丸子東3丁目1200番地 KDX武蔵小杉ビル8階
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